エジプトの蛇


エジプトの蛇についてです。
図像にもたくさんの形がありますが、 河出書房新社(1997/01) の 「図説 エジプトの神々事典」にまとめて書かれているので
整理してみます。

ステファン・ロッシーニ「神聖動物誌」
(「図説 エジプトの神々事典」巻末より)
ステファヌ ロッシーニ (著), リュト シュマン‐アンテルム (著),
St´ephane Rossini (原著), Ruth Schumann‐Antelme (原著),

矢島 文夫 (翻訳), 吉田 春美 (翻訳)

古代エジプトには40種類ほどのヘビが生息し、
今日でもそのうち34種類がエジプト国内に住み続けている。
それらの蛇は六つの科に属しているが、
コブラが含まれるelapsidae科の蛇のみが神聖視されていた
ウラエウスは一般にナジャnoja haja であるとされているが
むしろnaja nigricollisやnaja mossambicaと同一視すべきであろう。
(噛み付いて毒を注入するだけでなく、毒をはきかける能力がある)

コブラは主に以下の女神たちに捧げられていた。
コブラを意味する名詞はエジプト語では女性形


女神イシスの頭部にいるウアジェト

ウアジェト
  「緑のもの」、下エジプトの赤冠の後見人
ウラエウス
  ラーの目の化身、立ち上がって神々と王を守るもの
ウプセト
  「燃えるようなもの」、テフヌトの特殊形
レネヌテト
  乳母の蛇。収穫の女神
メルセゲル
  「静寂を愛するもの「、テーベのネクロポリスの女主人
アトゥム
  (鰻の形をとることもある)
ネヘベカウ
  カァと食物の分配者。地下(クトニアン)霊で、
時々二つの蛇の頭を持つ姿で描かれる
シャイ
  運命の女神
⇒(※waduet エジプトの蛇と女神) へ

古代人が原初の存在の生き方として思い描いてていたものと一致
世界の創造に先立って存在したヘルモポリスの四組の夫婦神のうち、
女神たちは蛇

蛇の脱皮は復活・再生のしるしと解釈され、葬祭テキストにおいて、
蛇が重要視されるようになった。
一方で、蛇の猛毒は神々でさえそれから身を守ることはできない
ラーは蛇にかまれてイシスに助けられ、
ゲブはウラエウスが吐きかけた毒の犠牲となる。
エジプトクサリヘビ
cerastes cerastesまたはaspis cerastes cornutus
キングコブラよりさらに強力な毒をもつ
ヒエログリフのアルファベット f の形

小型の蛇は悪霊とみなされ蛇を無力化するため、
ピラミッド・テキスト以来象徴的なナイフで
蛇のヒエログリフの図像を突き刺した。

アポビス 神の大蛇
災いをもたらす原始の力の化身
蛇は現存する最も古い種(鰐、蛙、亀)の一つ。
古代エジプトの形而上学的思考において
非常に重要な地位を占めている

女神たちは蛇であった、というのは、
聖書の楽園の蛇につながる、はるかかなたからの
人間意識の歴史を感じてスリリングな話でした。


谷口 幸男(平凡社世界大百科事典)
  世界中の民族の間で蛇崇拝やシンボルとしての蛇の存在の知られていないところはないくらいである。エジプトのクヌムインドのビシュヌ北欧のオーディンなどは蛇と強く結びついた神で,旧約聖書の《列王紀》下 18 章 4 節にはイスラエル人が蛇に香をたいてあがめたことがしるされている。同じ旧約の楽園の蛇は悪,とくに誘惑の原理をあらわし,これは後世しばしば女の首をもつ姿で絵に描かれる。蛇はイブと関係して全人類に罪をもたらしたとか,蛇とユダヤ人の老婆との間からアンチキリストが生まれたとされた。
しかしまた,聖書に〈蛇のごとくさとくあれ〉 (《マタイによる福音書》10 : 16) とあるように,蛇は昔から賢い存在とされる。
また蛇は死んだ人の魂の化身ともされる。この民間信仰は幸福を呼ぶ家つきの蛇と結びつく。ドイツやスイスでは蛇が家にすみつくことを喜び,食事や牛乳を与えて養う。蛇は人間に危険が迫っていることを知らせたり,ネズミの害や火事や落雷から守ってくれる守り神として人々に大事にされた。このような蛇を殺すと家に不幸が訪れるという。家の守り手ということと関連して蛇あるいは竜 (ドラゴン) が宝を守るという信仰もドイツ中世のニーベルンゲン伝説やギリシアのヘスペリデスの園のリンゴの伝説などに見られる。蛇はさらに何度も脱皮して若返ることから再生と不死身のシンボルになっている。このため強い治癒力をもつとされ,ギリシアの医神アスクレピオス蛇のからまった杖をもつ。 ⇒※蛇の図像へ
2006/04/08ここではエジプト限定で考えているわけであるが、
「エジプトのクヌム」とあるのは??
今はおいておきます。
今 現在、エジプトの蛇ですぐに 出てくるのは
原初の蛇アモン・ケマテラ 
巨大な蛇アポピス 
先史時代にさかのぼるとみられる呪文もある
Pyramid textsピラミッドテキストにも登場する ウアジェット…ですが、
世界大百科事典検索で
ウラエウスやウジャトの項目はないようですが、
荒俣さんによる蛇=竜の項目は、以下。

荒俣 宏(平凡社世界大百科事典)

西洋の竜は四肢を持つトカゲ型と,一対の翼および一対の肢を持つ鳥型に分けられるが,両者を混同した四肢二翼型や東洋の竜から影響を受けた形態のものもある。大きさは一定せず,空を飛ぶと大竜巻が起きるほど巨大なものから,イヌ程度のものまでさまざまである。その力は強く,ワシのような鉤爪と鋭い毒牙を備える。アリストテレスなどの記述に,翼ある竜はエジプトやエチオピアに産し,巨大なヘビ型の竜はインドに住むとあるが,前者は神としての有翼蛇,後者はニシキヘビの姿がもとになっているらしい

「翼ある蛇」というのは、「アリストテレスなどの記述」なのですか…
*翼のある蛇(ヘロドトス)の話あり。
補足⇒蛇図像 ⇒エジプトの蛇 ⇒エジプトの目次
2006/04/22

LastModified: 2009 年 (このページは 2004/08/11に初UPしました)
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