生命の木 聖樹


柑橘類 

新刊の『柑橘類と文明』なる本と、荒俣宏『花の王国』の「有用植物」から見てみます。

Bartolomeo Bimbi - Citrus - WGA02199

ミカン属とはこじんまりとした属でわずか三種だった
中国原産のマンダリン
マリーシアとマレー諸島に生えるブンタン
北インドのヒマラヤ山脈の斜面に生えるシトロン

『柑橘類と文明』(P62) ヘレナ・アトレーHelena Attlee著
三木直子訳2015年5月築地書館
原題:Then Land Where Lemons Grow
The Story of Italy and Its Citrus Fruit

1. Mandarin

Mandarin Oranges (Citrus Reticulata)
学名:Citrus reticulata) 

2.ブンタン

Buntan.jpg
"Buntan". Licensed under GFDL via Wikipedia.

文旦、学名:Citrus maxima

3.シトロン

Chinesische Zedrat Zitrone
学名:Citrus medica 別名:丸ブッシュカン
漢名:枸櫞(くえん)→クエン酸

マンダリンとブンタンの交配種:オレンジ
・・・スィート・オレンジもダイダイ=別名ビターオレンジも両方とも

ブンタンとオレンジの交配種:グレープフルーツ

シトロンとダイダイの交配種:レモン

(『柑橘類と文明』P62 )

ほとんどの植物は同じ種の個体どうしでなければ他家受粉ができないのだが、ミカン属が珍しいのは、異なる種の間でも他家受粉はおおむね可能で、ちゃんと発芽する種子ができる。私たちがよく知る柑橘類の果物の多くは、野生種も栽培種も含めて自然に起きた他家受粉による交配種である。 →この傾向で、種類が増え続けた

(『柑橘類と文明』p62 )

Buddhahand
ブッシュカン(仏手柑)はシトロンの変種 (C. medica var. sarcodactylus)

柑橘類の分類をめぐる混乱を解決しようとしたジョバンニ・バティスタ・フェラーリ
シトロン、レモン、オレンジという三つの厳密なカテゴリーに分けた。 1646年刊『ヘスペリデスの園、あるいは黄金の林檎の栽培と使用法』

(『柑橘類と文明』p65 )

1860年、、シチリアの柑橘類栽培は、ヨーロッパで行われたほかのどんな農業生産よりも大きな収益を生んだ。 マフィアmafiaの多くは貴族階級の人間であり、全員がコンカドーロで最も力のある地主となった近代的な企業家だった。(p110)
多額の投資が必要で回収に時間がかかるということが地主たちを多いに神経質にさせた。マフィアによる用心棒代の取り立て。不安の種をまくと同時に危険からの保護を提供することで、マフィアは19世紀半ばから20世紀の初頭まで、柑橘類栽培のあらゆる側面を支配した。悪徳に満ちた時代。 (『柑橘類と文明』p112)

http://www.gruri.jp/article/2015/08171600/

マフィアの起源は、中世シチリアのガベロットと呼ばれる農地管理人である。彼らは農地を守るため武装し、また農民を搾取しつつ大地主ら政治的支配者と密接な関係を結んでいった

Wikipedia
ベルガモット(英:Bergamot)
学名:Citrus × bergamia
ダイダイ (C. aurantium) とマンダリンオレンジの交雑種
イタリア原産で主に地中海沿岸地域で栽培されている。主な産地はイタリアのカラブリア地方である。 ベルガモットの果実は生食や果汁飲料には使用されず、専ら精油を採取し香料として使用される。 果実の果皮から精油が得られ、これを香料として使用する。 Wikipedia

1937年アルベルト・セント・ジェルジが、レモン果汁に含まれるビタミンCが抗壊血病成分であることを突き止め、ノーベル賞を受賞

ビタミンCの発見の前に、「1753年にイギリス海軍省のジェームズ・リンドは、食事環境が比較的良好な高級船員の発症者が少ないことに着目し、新鮮な野菜や果物、特にミカンやレモンを摂ることによってこの病気の予防が出来ることを見出した」とWikipedia
Giovanni Baptista Ferrari(1584 - 1655)
Wikipedia

Aurantium corniculatum.jpg
"Aurantium corniculatum" by engraved by Cornelis Bloemaert, ca. 1630 - http://www.georgeglazer.com/prints/nathist/botanical/ferraricit/semalphitanvs.JPG. Licensed under パブリック・ドメイン via ウィキメディア・コモンズ.

Striatus amalphitanus.jpg
"Striatus amalphitanus" by engraved by Cornelis Bloemaert, ca. 1630 - http://www.georgeglazer.com/prints/nathist/botanical/ferraricit/semalphitanvs.JPG. Licensed under パブリック・ドメイン via ウィキメディア・コモンズ.

君知るや南の国
レモンの木は花咲き くらき林の中に
こがね色したる柑子は枝もたわわに実り
青き晴れたる空より しづやかに風吹き
ミルテの木はしづかに ラウレルの木は高く雲にそびえて立てる国や
彼方へ君とともに ゆかまし

Then Land Where Lemons Grow・・君知るや南の国
byゲーテ (森鴎外訳)

「黄金の林檎」

印欧語で"Apple"は果実全般を指す語
さまざまな言語における黄金の林檎 多くの言語で、「黄金の林檎」とはオレンジのことである。(Wikipedia黄金の林檎2015-09-12参照)

「世界シンボル事典」には、オレンジもレモンもシトロンの項もないが、リン ゴはあり。(さらにいえば、ブドウ酒はあるがブドウはない。)

以下「世界シンボル事典」より

リンゴ
ヘラクレスは数々の危険を冒して、西の果てのヘスペリデスの園(→至福者の島)にある「黄金のリンゴ」を持ち帰ることに成功する、(第11の功業)

「イメージ・シンボル事典」では、一転してオレンジもレモンの項もある。(さらにいえば、ブドウもブドウ酒もブドウの木もある。)
ただし、レモン檸檬 は、マラルメやエリオットの詩のイメージの話。 大したことは書いてない。

以下「イメージ・シンボル事典」より

オレンジ
金色であるため、天界の果実とされ、完全、無限を表す
オレンジは常緑で花と実を一緒につけるため、豊穣を表す。イギリスの結婚式で花冠に一番よく使われる花

イタリアの見どころ
柑橘類のコレクションがある庭園

(『柑橘類と文明』巻末)
私有庭園(予約制): http://www.ilgiardinodelbiviere.it/
フィレンツェ植物園 http://www.museumsinflorence.com/musei/Botanical_garden.html
ジェノヴァの豪邸の庭園 http://www.doriapamphilj.it/genova/
メディチ家https://www.polomuseale.firenze.it/
ヴィラパラゴニアのリモナイア http://www.villapalagonia.it/
公開されているレモン園http://www.comune.limonesulgarda.bs.it/
ラッコニージの城と公園 http://www.ilcastellodiracconigi.it/ita/index.htm
柑橘類の養苗場https://www.facebook.com/Hortus-Hesperidis/
トスカーナの高名な養苗場http://www.oscartintori.it/
シチリアの宿泊施設のある農園 http://www.marchesidisangiuliano.it/en/
http://aranjaya.com/
オレンジ合戦http://www.storicocarnevaleivrea.it/
http://www.buggianocastello.it/la-campagna-dentro-le-mura
http://www.museodelbergamotto.it/
フィレンツェ自然史博物館 植物博物館http://www.msn.unifi.it/(月曜休館)
ウフィツィ美術館 http://www.uffizi.firenze.it/musei/
・・・Bartolomeo Bimbi (1648–1723) の柑橘類の絵が見られる(事前予約)


『花の王国』の3「有用植物」は
オレンジから始まる。ついで、キンカンとダイダイが挙げられている。
まず、マッティオリの『コマンテール』(1579リヨン刊)の普通のオレンジの花と実の図で「柑橘類の中には、起源にまつわる不思議な伝承を持ったものが多い」
ピエトロ・アンドレア・マッティオリ Pietro Andrea  Mattioli(1501– 1577)(Wikipedia

Mattioliは、植物の学名で命名者を示す場合にピエトロ・アンドレア・マッティオリを示すのに使われる。

図版出典は 「オレンジ図誌」リッソ, A&ポワトー,A.
"Histoire Naturelle des Oranges",Risso ,A. Poiteau A,Paris,1818-22
(下の図はgooglebook)

オレンジは遠くサンスクリットの「ナランジャ」に起源するが、直接には南仏蘭西の地名に由来
原産地:インド北東部に起源。中国、ポルトガル、アゾレス諸島、アメリカと伝播する過程のどこかで確定。
オレンジの中国名:甜橙
西洋に伝わったのは15世紀中ごろ。ポルトガル人の手による。
西洋導入後はスペインが主要なオレンジ生産国となった。
フランスやイギリスなどアルプス以北の国では、南国を感じさせる果樹ちして17世紀ころ流入。オランジェリーと呼ばれるセンニョう温室で盛んに育てられた。
アダムのリンゴはベルガモットとレモンの交配種
ライム:「騎士団員の西洋ナシ」の仏蘭西名を持つ

キンカン
学名の属名フォーチュネッラはイギリスの著名なプラントハンターR・フォーチュンの名にちなむ
柑橘類の中ではもっとも小さい
原産地:中国
中国名:金柑

 

ダイダイ
和名は代代
原産地:インドあるいは東南アジア 中国名:酸橙
スペインのセヴィリャの名産品で、現在も、マーマレードの原料として生産されている
日本には古代に中国から移入された。記紀に登場する「トキジクノカグノコノミ」と推定される。正月の鏡餅の上に飾られる。落下しにくく金色であることから縁起物とされたもの。

 
『花の王国』の3「有用植物」からは以上
次にインド原産ということで、『ネパール・インドの聖なる植物』http://www.yasakashobo.co.jp/を見たが、
「ナガエミカン」の1ページ のみであった。 「多少の宗教性を持っている。アナンタ・プージャーの日にこの木を蛇族の主シェ―シャの名のもとに奉納する。葉に芳香があり、実は、薬用となる。」
香りの植物 」ということで吉田よし子著を見ると
ベルガモットオレンジ、 コブミカン、タチバナ(橘)、ユズ(柚)、レモン(檸檬)、ダイダイ(橙)、バレンシアオレンジの7つが載っていた。
「コブミカンの葉はタイ料理に欠かせず、ユズの香りはは日本料理に欠かせない、数ある中で橘だけが日本原産で、文化勲章がこの花象る、高村光太郎がレモンの色を「トパアズ色」と形容した」
2013年クリスマス刊の『ネパール・インドの聖なる植物事典 』はもっていないので、以下ネット検索
 

ナガエミカン(wood apple)

学名:Feronia elephantum correa (Syn:Feronia limonia, Schinus limonia, Limonia acidissima)
分類:ミカン科フェロニア属
http://tplant.web.fc2.com/3mikan_tanakaa.html
http://inakaseikatsu.blogspot.jp/2014/08/blog-post_10.html

仏典では、様々な植物が言及されているが、ここでも柑橘の記載はほとんどない。唯一、ナガエミカン(wood apple)が知られているだけである)。時代が更に下って仏教が東漸してゆくと、それに伴ってシトロンの一種である仏手柑が寺院に植えられるようになるようだが仏教が形骸化・形式化していく中で、仏手柑の象徴性が珍重されたものと思われる。

【参考文献】
栽培植物と農耕の起源 (岩波新書 ) 』1966年、中尾佐助
『Odessy of the orange in China: Natural HIstory of the Citrus Fruits in China』1989年、William C. Cooper
『仏典の中の樹木—その性質と意義(2)』1973年、満久崇麿
ヒマラヤ地帯と柑橘の発現』1959年、田中長三郎(Wikipedia
『The Exotic History of Citrus』2012年、Patrick Hunt
Odyssey of the Orange in China

http://www.electrummagazine.com/2012/10/exotic-history-of-citrus/
ポンペイの家の壁画
ディオスコリディスなど


Engraving of an Italian Orangerie by Gio. B. Ferrari.
From his 18th c. Hesperides (Photo public domain)

Francisco de Zurbarán 063
Still Life with Lemons, Oranges and a Rose Date 1633 Norton_Simon_Museum
Francisco de Zurbarán (1598–1664)
ギルランダイオ Domenico Ghirlandaio (1449–1494)の「最後の晩餐」の柑橘類の木
「背景に鳥と植物によって楽園のイメージが描かれている」宮城徳也(Wikipediaギルランダイオ)

Domenico ghirlandaio, cenacolo di ognissanti 01.jpg
"Domenico ghirlandaio, cenacolo di ognissanti 01
" by ドメニコ・ギルランダイオ - Web Gallery of Art:   Image  Info about artwork. Licensed under パブリック・ドメイン via ウィキメディア・コモンズ.
オンニッサンティ教会の「最後の晩餐」 1480年 4×8メートル

Ghirlandaio, ultima cena di san marco
サン・マルコ教会の「最後の晩餐」1482年 San Marco

Botticelli-primavera.jpg

プリマヴェーラ(1477年 - 1478年頃、ウフィツィ美術館)
Dosso Dossi (Giovanni di Niccolò de Lutero) (Italian (Ferrarese) - Mythological Scene - Google Art Project
1524 ( Los Angels, The J.Paul Getty Museum )
Dosso Dossi (Giovanni di Niccolò de Lutero) (Italian (Ferrarese), about 1490 - 1542)

パーンの神話

Frederic Leighton - The Garden of the Hesperides
The Garden of Hesperides (circa 1892)Lady Lever Art Gallery
Frederic Leighton (1830–1896)

ヘスペリデスの園

The Garden of Hesperides by Ricciardo Meacci
The Garden of Hesperides (1894)
Ricciardo Meacci (Italy, 1856 - 1900)

古代ギリシャとローマでじゃ「林檎」は果実全般を指す言葉で、紀元前450年にオリンピアに建てられたゼウス神殿のフリーズに見られるように、黄金の林檎はもともとはカリンとして描かれていた。
だが一世紀になると、モーリタニア王国のユバ二世は、カリンではなくシトロンのことを「ヘスぺリアの林檎」と呼んでいる。

二世紀になり、皇帝アントニウス・ピウスの統治時代にヘラクレスの功業が一連の銅のドラクマ硬貨に描かれたろき、 ヘラクレスが木から摘んでいるのはシトロンの形をした果実である[16世紀、神話がイタリア庭園の図像に豊富に使われるようになった時、ヘスペリデスの園の絵にはまだ、シトロン、ときにはオレンジによって描かれていた。

(『柑橘類と文明』p274)

『柑橘類と文明」』はイタリアと柑橘類の物語・・木々が強烈な幸福感を発散させている、南の国の果物・・・
カバーはウィリアム・モリスの「果樹園」とあり・・
何かオレンジの実を 花びらみたいに葉(?)がとりまいているというデザイン は、よく見ると不思議

『生き物・草花漢字辞典』(加納喜光2008)に取り上げられた「果樹」 43のうち13がミカン科

桃 苺 柿 栗 林檎 梨 梅 蒲萄 蜜柑(ミカン) (ユズ) 杏子 李 山桃 木苺 桜桃 金柑(キンカン) 酢橘(スダチ) 甘蕉 八朔(ハッサク) 郁子
椰子 無花果 胡桃 柘榴 枇杷 荔枝 檸檬(レモン) 竜眼 棗 茱萸 朱欒(ザボン) (ダイダイ) 通草 榛 桶柑(タンカン) 橄欗
九年母(クネンボ) 柑子(コウジ) 山桜桃 仏手柑(ブシュカン) 椪柑(ポンカン) 巴旦杏 榲桲

蜜柑
ミカン科の柑橘類の総称。ミカンの種類は多い。
漢字では 柑・橘・橙・柚等がある。
しかしそれらが現代のどんな種類にあたるかは定説がない。
和名のミカンはもとはミツカンといい、蜜のような味がするところから名がついたという。
カンはもちろん漢字の柑である。柑も甘(カン あまい)が語源である。
漢名の蜜柑は用例がきわめてとぼしいが、ポンカンを指したらしい(加納喜光2008)

柚子
ユズのズは酢。ユは柚の音または弥(いや)の意だとされる。
現在の中国では、柚はユズではなく、ザボン(文旦)のことである。
本草網目の李時珍(16世紀)は、由(ゆ)はつぼの象形文字であり、柚は団欒(まるい)の形に象ると述べている。この柚はザボンの形にふさわしい。(加納喜光2008)

※〔説文〕は形声とする。

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