唐草図鑑

ギリシアの陶器

アッテッカの陶器  pottery

岩波の[ギリシア美術](ナイジェル・スパイヴィ著)に挙げられているコリントス陶器の代表作は⇒こちらで見ました.
ついで、本命のギリシア、ギリシア=アテネ・・ということで、アッティカ・・

新潮世界美術辞典:ギリシア陶器

前6世紀にはアッティカが再び陶芸の中心地となり、黒像式の画法を完成させ、この世紀の後半には赤像式の新しい画法を生んだ。 

前6~前5世紀のアッティカの製品は、主にエトルーリア、マグナ・グラキア(シチリア)に輸出されたが、前5世紀の終り頃にはイタリア各地で窯業が起こり(アープーリア陶器、カンパーニア陶器など)、アッティカの陶工は、黒海沿岸(ケルチ地方)、北アフリカ(キュレーネー)等に新しい顧客を求めた。 

前300年ごろ、アッティカの赤像式陶器は姿を消し、ヘレニズム期には、表面全体を黒く塗り、無装飾か、あるいは型押しによる文様装飾をもつ陶器がつくられた。 

新潮世界美術辞典:ギリシア美術

プリニウスが述べるギリシア絵画生成の過程は、初期陶器画の様式展開と一致する。 彼によると、絵画はまず純粋 なシルエット描法から始まり、(幾何学様式の陶器画)、続いて輪郭描法へと進み(前7世紀のいわゆる東方化様式の陶器画)、最後に咲移植によって男女の性が区別されるようになったという(前6世紀の黒像式陶器画)

前6世紀後半に活動した、エクセーキアースは黒像式の真の完成者とみなされている 。

http://www.hellenicaworld.com/Greece/Person/en/Exekias.html

世界美術大辞典(小学館):黒像式

black-figured 古代ギリシア陶器の装飾技法の一つ。
コリントス陶器の影響のもとに 前600年頃アッティカ地方の工房ではじめられた技法で、素地の上に形象のみを黒で塗りつぶし、その細部を尖った錐のようなもので掻き落として表すもの。

主題は神話や叙事詩の場面、運動競技や日常生活の場面など多岐にわたっており、当初は器面をいくつかの水平帯に分けて多数の主題を表す傾向がみられたが、しだいに器体腹部にしゅだいをしゅうちゅうさせるようになった。

この技法は前6世紀末に赤像式が起こるまで流行したが、それ以後はパンテナイア祭のアンフォラなど、狭い範囲に適用されるにすぎなくなった。

世界美術大辞典(小学館):ギリシア美術

前8世紀末頃、アッティカ地方の陶器工房は、プロト・アッティカ様式(Proto-Attic style)を形成する。 その様式においては多彩な効果が探求され、最初の神話的主題が描出された。
それらは最初の複雑な叙述的場面であり、神々や英雄たちが陶器の表面にしばしばかろうじて描き込まれているのは、より大型の絵画に由来するためであろう。  アッティカ陶器はコリントス陶器よりも魅力に乏しかった。
しかし独自のテーマに関する執拗で一貫した洗練化と、「黒像式」(赤い地の上に黒色で形像を描く壺絵技法)への有機的な発展が、古典美術の開花の着実な前提を生みだした。 

前6世紀中ごろの重要な美術分野は、黒像式のアッティカ陶器である。
現存するその代表例「フランソワの壺」〔フィレンツェ考古博物館〕はおそらく最古の最も完成された渦巻型クラテルで、陶工エルゴティモスと陶画家クレイティアスの作品である。

エルゴティモス

Ergotimos:前6世紀前半古代ギリシアの陶工 
名高い「フランソワの壺」 以外にもエルゴティモスの署名は、やはりクレイティアスの絵付けによる作品5点と、他の陶画家の画像も持つ西ベルリンの国立美術館所蔵のキュリクスに見られる

黒像(こくぞう)式 ;黒絵


(世界美術大事典 ギリシア美術 図4)
『フランソワの壺』クラテル(把手部分) エルゴティモス作、クレイティモス画
アッティカ黒像式 前6世紀 キウ―ジ出土 フィレンツェ考古博物館蔵

世界美術大辞典(小学館):アッティカ陶器

アッティカ陶器の第一期 : 前600~前530年
この時代を代表する傑作「フランソワの壺」〔フィレンツェ考古博物館〕は、前6世紀前半に、陶工エルゴティモスと陶画家クレイティアスによって制作された。

渦巻形把手付きクラテル軒面をいくつかの水平帯に分けて神話場面を配したもので、中央の最も重要な水平帯には、「ぺレウスとテティスの結婚」、その下には「トロイロスを待ち伏せるアキレウス」、脚部には「ピグミー族と蔓の闘争」が確かなせんと生き生きとした描写力で入念に表現されている。

ここで、メインで参照しているナイジェル・スパイヴィの『ギリシア美術』での引用7陶器をもっと見てみます

武装徒競争

84 85 アテナイの黒像式アンフォラ 前540年頃 高さ36㎝ 
ミュンヘン国立古代収集

Hoplitodromos Staatliche Antikensammlungen 1471
Hoplitodromos (armoured race); on the right some tripods as winning prizes. Side A of an Attic black-figure neck-amphora,
ca. 550 BC. From Vulci.
Artist: Group E

図 86 アテナイの黒像式アンフォラの断片 エクセキアス作画
前540年頃 ルンドLund大学 歴史美術館(スウェーデン)

図87 《フランソワの壺》アテナイの黒像式渦巻クラテル 
陶工エルゴティモス、画工クレイティアス
前570年頃 高さ66cm フィレンツェ考古美術館

1844年の発見者の名前がフランソワということはともかく1900年頃、美術館の警備員がイスを投げつけて壊してしまったというのはどういうことだろう。(>_<)
wikimediaのカテゴリーに62ファイルがある。
ナイジェル・スパイヴィは、「結婚式のためのテーブルの中央を飾る調度品として注文されたのであろう。この膨大な容量を誇るクラテルは大宴会にふさわしい陶器であった、その主題は変化に富んでいるけれども、1つの目立つ中心テーマは、アキレウスの良心の結婚式の場面なのである」という。(p145)

The François Vase, a milestone in the development of Greek pottery, is a large volute krater decorated in the black-figure style which stands at 66cm in height. Dated at circa 550 BCE it was found in 1766 in an Etruscan tomb in the necropolis of Fonte Rotella near Chiusi and named after its discoverer Alessandro François.(Wikipedia20151024閲覧):フランソワの壺での記述は1844年でよいですが、こちらはなぜか発見年が違っている様です。

エクセキアス

91 《将棋をさすアキレウスとアイアス》
アテナイの黒像式アンフォラ 
エクセキアスの画
前540―前539年頃 高さ61cm ローマ ヴァティカン美術館

Akhilleus Aias MGEt 16757

これは毎度おなじみ、逃せない最高の作品のよう。※大塚美術館にも複製ありという。岩波美術館の歴史館第3室「美神の世界」で裏面も紹介されていました。《カストールとポリュデゥケース》レダの息子で双子の兄弟

ゴンブリッチの古典的名著とされる『美術の物語』(THE STORY OF ART 16th edition(en.Wikipedia)にはギリシアの壺は5つしか紹介されていないが、その中の一つがこれ。

~ゴンブリッチの『美術の物語』(図48) ~
Acilles and Ajax playing draughts,c.540 BC;《将棋をさすアキレウス》 The warrior's leavetaking,c.510-500 BC

Exekias, anfora con achille e aiace che giocano a dai, castore e polluce, da vulci, 540-30 ac ca. 05.JPG
"Exekias, anfora con achille e aiace che giocano a dai, castore e polluce, da vulci, 540-30 ac ca. 05" by Sailko - 投稿者自身による作品. Licensed under CC 表示-継承 3.0 via Wikimedia Commons.

~岩波美術館の歴史館第3室「美神の世界」前川誠郎解説~
赤地に図柄を黒く描いたいわゆる「黒絵式」の陶画は、 幾何学様式の大甕の葬儀の場に並んでいたシルエットの人物たちの発展形態と考えることができる。この間に抽象的な文様から具象的な絵画への転換が行われ、やがて「赤絵式」、さらには「白地線描式」へと進み、陶画という限界はあっても微妙な細部表現や心理描写の追及が展開されていく。

図説 世界の歴史〈2〉古代ギリシアとアジアの文明 」(世界史研究の第一人者 J.M. ロバーツ著) の本文全ページの小口寄りの端にエクセキアスのこの陶器が出ていました。第ニ部の古代ギリシア文明のところだけでなく、第一部の「アジアの古代文明」にまで。


「2人はゲームに熱中しているが、その一方、
いつでも戦闘に参加できるように槍を肩にかけている。」

ちなみにp136でこのように紹介されていますが、陶画家の名前はどこにもありません。

Exekias Suicide d Ajax 01

92 《自害の準備をするアイアス》黒像式アンフォラ 
エクセキアス作画 前530年頃 ブーローニュ・シュール・メール シャトー美術館

アマシスの画家

新潮世界美術辞典:アマシスの画家

Amasis Painter :古代ギリシアの陶画家。
前6世紀後半、陶工アマシス(Amasis)の署名のある陶器に絵付けをした逸名の画工。エクセーキアースとは対照的な様式の持ち主だが、ともに黒像式陶画の完成車となった。装飾性に富む軽妙な素描かで、代表作は「ディオニューソスとマイナイデス」のアンフォラ。(前540頃、パリ、国立図書館メダイユ部)

アマシスの画家:Wikipediaには項目なし
名前は古代ギリシアの陶芸の項目に出てきます

99 100 アテナイの黒像式アンフォラ[アマシスの画家]に帰属 
前540-前530年頃 ヴュルツブルク大、マルティン・フォン・ワ-グナー美術館
Amphora L 265<酒造りのサテュロスたち>Satyrs making wine
Black-figured vase by the Amasis Painter of 6th c. B.C. Athens,
recovered from the Etruscan site of Vulci,
shows a busy winemaking scene in the vineyard.


Dionysos with satyrs 裏面が気になるが・・主要な場面の上の帯に
ディオニュソス神がいる:シュンポシオンsymposion(饗宴)

Würzburg Martin von Wagner Museum [Credit: Martin von Wagner Museum, University of Würzburg, photograph: P. Neckermann; redrawn and adapted by Benjamin Luley] : http://archaeologynewsnetwork.blogspot.jp/2013/06/new-evidence-for-beginnings-of.html#.Vis10X7hBpg

94 <アテナ>パナテナイアのアンフォラ
前530年頃 高さ62.5cm ロンドン 大英博物館
Panathenaic Amphora, Detail depicting Athena, black-figure pottery,
525 BC, Italy, Ancient Greek civilization, Magna Graecia, 6th Century BC :

だいぶ探したが、上の大英博物館のものがWEBに見あたらない。下はヴァチカン美術館のもの。この「パンアテナイ競技会のトロフィー」というのは実にたくさんあるようだ。
ギリシアの古壺は何万個残っていたのでしたか・・10万点が記録されているとWikipedia:古代ギリシアの陶芸(20151024閲覧) にあり。
図説 古代ギリシア による(ジョン キャンプ, エリザベス フィッシャー, John Camp, Elizabeth Fisher, 吉岡 晶子訳)パンアテナイア型アンフォラの説明

パンアテナイア型アンフォラ

多くの競技で、これにオリーブ油を入れて賞品として与えた。
片面には必ず足を踏み出した戦士姿のアテナ像が描かれた。最も前360年ころにアテナの向きが変わり、左から右へ足を踏み出す姿で描かれるようになった。
さ\移植した文字「その年のアルコンの名前」が刻まれてるので、壺の年代を確定できる。

パンアテナイア型アンフォラの背面。オリーブ油を入れたこのアンフォラを賞品とする競技が描かれている。

陶器の黒像技法が人気を失ったあとも、パンアテナイア型アンフォラには何世紀にもわたって黒像式で描かれた

パンアテナイア祭は、毎年夏ハカトンパイオン(だいたい7月頃)二十八日に開催された。
他の競技会では優勝者は冠をもらうだけだったが、パンアテナイア祭では値打ちのある褒賞が与えられた。現金や黄金の巻っ無理や牡牛一等という場合もなったが最も一般的な尚はアテナの神木オリーブから取れた油を入れた壺であった。 (p190


Vaticano 26-08-2004

Panathenaic prize amphora:
http://www.beazley.ox.ac.uk/tools/pottery/shapes/panathenaic.htm

、⇒古代ギリシア都市コリントスのページ⇒幾何学様式の陶器⇒アッティカの陶器(黒像式)→(赤像式


△ PageTop

HOME

唐草図鑑
目次
文様の根源
聖樹聖獣文様
文献
用語
MAIL
サイトマップ