唐草図鑑
聖樹聖獣文様

『聖なる幻獣』を読む

唐草とともにある聖獣(2)

マカラ

立川武蔵(著)/大村次郷 (写真)
(集英社新書 2009/12/16刊)

「神々や仏の聖性を高める獣たち。」
目次 /序章/ 第一章 キールティムカの顔
第二章 海獣マカラ
第三章 トーラナという宇宙
第四章 蛇と龍
第五章 翼のある獣
第六章 一角獣
第七章 聖獣と神々/ あとがき/ 参考文献

目次読書


立川武蔵さんの『聖なる幻獣』を読む 第2章
目次(+抜き書き+画像検索)読書


海獣マカラ

ワニに似た怪獣マカラ

図(第二章表紙) アジャンタ第二窟、ブッダとマカラ。インド

図2-1

二本脚を有するマカラ。ルンチュン・ルン・ブン・アジマ寺院、カトマンドゥKathmandu
(鳥のような脚) 半円装飾の頂点には、蛇を両手でつかんで口に咥えるキールティムカが見られ、その半円の下部左右に花綱を口から出すマカラがいる。(p81)

海から天を見挙げている聖獣といえる 一般に口はワニのそれより短く、胴はクジラに似て、尾の形は魚のそれに似ている。
キールティムカが口からさまさまなものを噴き出していたように、マカラもその大きな口から花綱、神々、蛇、動物などを生み出す。
創造する力がある

(p80)


大きな地図で見る
図2-2 法界マンダラとその上に置かれたヴァジュラ(金剛杵こんごうしょ)17世紀にプラターパ・マッラ王により建立された。 カトマンドゥ市西北部のスヴァヤンブーナート寺院

図2-3 ヴァジュラの「爪」(鈷 こ)を生み出すマカラ。
スヴァヤンブーナート寺院、 カトマンドゥ。

ヴァジュラは元来は『リグ・ヴェーダ』の英雄神インドラの武器である稲妻を指していた。 仏教では、煩悩を打ち破り、仏の道を求める心の象徴とされる。


図2-4 蛇を産むマカラ。オン・トゥ寺院Wat Ong Teu、ヴィエンチャン
ラオスでもマカラはよく知られている。

首都ヴィエンチャンにあるテーラヴァーダ仏教(上座仏教)(Theravada)の寺院の入口にしばしば蛇あるいは竜に似た動物がみれらますが、これは蛇ではなくマカラ
マカラが蛇あるいは竜を生み出している。

WEB検索 Wat Ong Teu
「鶏頭ナーガ」?https://www.mekong.ne.jp/ippanreport/nobuo-okazaki/lao.html (イメージの喚起力がありますが、ちょっと違うかも)

WEB検索
ルンチュン・ルン・ブン・アジマ寺院・・?
ネパールの見所:カトマンズ市内
https://www.saiyu.co.jp/special/nepal/midokoro/kathmandu/index.html

WEB検索
ネパール大使館:ネパールの宗教建築
パゴダ (pagoda) 様式は基本的に木造建築
https://www.nepalembassyjapan.org/japanese/interest/architecture.html

マカラと十二宮

マカラの起源ははっきりしない
しかし、キールティムカのイメージの源泉がギリシャにあったように、 マカラのイメージの源泉も古代オリエントの天文学にあるようだ
古代オリエントの考え方・・天動説の黄道(太陽の動き)・幅を持った帯状のものとしてイメージされた
その地球を取り囲む帯が動いていく。

春分の日を起点に十二等分
帯=(獣帯)、十二等分された空域=(十二宮)
インドに伝わり、十二宮の一つがマカラ宮(魔羯 まかつ 宮)と呼ばれる
ヨーロッパの占星術では山羊座 (キャプリコーン)・・上半身が山羊、下半身が魚・・ 牧人と家畜の神パーンが、怪物テュホンに襲われてナイル河に飛び込んで逃げようとした際、化けそこなった姿と伝えられる
海山羊のイメージは既にバビロニアにあった。
インドのマカラは、この神話的動物のイメージに影響を受けたと思われる。


Capricornus,Amiens, France

ここで山羊なんですが・・(海山羊)!? ・・

図2-5 『尊像集成』の山羊面人身のマカラ。ネパール国立公文所

インド、ネパールにおいて、マカラが常にワニに似た姿であらわされるわけではない。

(P85)

ギリシャ神話とマカラ

古代オリエントにおいて星座にまつわる動物体のイメージが作られた時代、 山羊座の海山羊には後世のインドに見られるようなマカラのイメージはなかった。
一方インド人たちが冬至のころの十二宮の星座を「マカラ」としたときには、 すでにインドには海山羊とは異なる海獣マカラのイメージがあった。 いつどこでそのイメージを得たのだろうか。


パキスタンのタキシラ出土の金属装飾品、 インド南東部のアマラーヴァティー(紀元前2~紀元3世紀)遺跡の彫刻に、マカラが既にみられる
ギリシャ神話が関係した可能性がある。

(p.86)

この辺りは後ほど、平凡社『イメージの博物誌』シリーズ1冊目の「占星術」などを参照してみます→獣帯(zodiac)


図2-6 バールフト仏塔のマカラ。口はワニに、尾は魚あるいはクジラに似る。 インドにおける古いマカラのイメージの一例。 紀元前2世紀ころ。インド博物館、コルカタ。

図2-7 ガンダーラ地方で製作された菩薩像の首飾りの意匠に二匹のマカラ インド国立博物館、ニューデリー
このマカラのイメージはケートス(クジラ座)に関係があるといわれている(参考文献:田辺勝美)

紀元前2=紀元前1世紀のアマラーヴァーティやバールフトで見られたマカラのイメージを、すべてガンダーラ地方における作品から説明できるかは課題。

図2-8 人を乗せる海獣(マトゥーラ郊外)長い体に、やや長い口、尾は魚のそれであり、胸鰭も有する。想像上の動物ではあるが、マカラのイメージに近い。1世紀ごろ。インド国立博物館

マカラとガンジス川

インド人はマカラと聞いて、まずガンジス河を思い浮かべる。
サンスクリットでは「ガンガー」、神格化されたガンジス河の女神のこととでもある  
この女神はマカラを乗り物としていると考えられている


マカラにのった女神ガンガーの映像はインドやネパールでよく見かけられるが、 いつごろから女神ガンガーの乗り物としてしられるようになったのかははっきりしない。 紀元前12世紀~紀元前9世紀ごろに編纂されたお題インドの聖典『リグ・ヴェーダ』の中では女神ガンガーはほとんど活躍しない、マカラを乗り物としているとも述べられていない


しかし、マカラの「胴体」に見られる渦巻き文様はこの聖獣の本質を見せている 渦巻はものが生まれる源の象徴
マカラの体の渦巻き模様は、通常、唐草模様で表現されていますが、このような渦巻きはインド、ネパールを超えて、東南アジアや東アジアに広く見られます。


図2-9 マカラの背に乗る女神ガンガー アジャンタ第5窟
比所に魅力的な写真です

ガンガー(ガンジス河)とヤムナー河はインド平原を南下する代表的な河川であり、これらの河はそれぞれ神格化されている。 ヤムナー女神は亀に乗る。

Wikipediaでは、ワニ(クンビーラ)にのったガンガーGoddess Ganga, National Museum of INDIAとあリマカラの記述なし。 (クンビーラ=金毘羅)


Shiva and Ganga in Varanasi
どう見てもシヴァ神は虎、ガンガーは単なる鰐に乗っている?

WEB検索
アジャンタ第5窟https://wadaphoto.jp/kikou/aja3.htm


図2-10 口から地下水を出すマカラ パタンの旧王宮広場
マカラの口から野猪に似た動物が現れその口から魚が出て、その魚の口から水が出ている。

鯱鉾とマカラ

名古屋城の金の鯱鉾
明らかにマカラのイメージを踏まえている。 中国の旧往生や寺院建築にはそのようなマカラ像が数多く残っている。
図2-11 少林寺の屋根の上のマカラ
中国のマカラはインドに比べてウロコが目だつ、魚のイメージに近くなっている。
水にすむマカラが屋根の上にまで上がったのは 「雨乞い」のためであると同時に

「火伏せ」

の役目を科せられていたから

図2-12 西安 青龍寺のは軒下におかれた
中国でも日本でも、 屋根の端に置かれるマカラの像は鴟尾と呼ばれてきた。
西夏(1032-1227)の領域からも鴟尾が出土している

図2-13 西夏王陵から出土した鴟尾 寧夏回族自治区博物館 銀川

金毘羅とマカラ


マカラはサンスクリット語で「クムビーラ」:日本では「金毘羅」
香川県琴平町の金刀比羅(ことひら)宮は、漁業や航海に関わる人の信仰を集めた
もともとは土地神を祀っていたのが、海を目前とした立地によって、マカラへの崇拝と結びついたと考えられる。 (もともと祀られていた神と同化)(p96)
愛知県豊川稲荷では、日本古来の稲荷神とインドのダーキニー(荼吉尼)女神が結びついている。
「ダーキニー」とは飛ぶ女を意味し、チベットでは「カンドーマ(空を飛ぶ女)」中国では「空行母」と訳された(母=母親ではなく女性)

三十三間堂で購入した「三十三間堂の佛たち」(飛鳥園 平成20年1月発行)ですが、改めてみると、 獅嚙の甲冑装束を着ているのは、金毘羅王像(p16)で、腕に獅嚙、被り物も獅嚙みになっている。しかし、あとは、五部浄、東方天(持国天)の腕にあるが、 四天王の他の面々にはなにもないようだ。(1164年後白川上皇創建)
ちなみに東大寺の法華堂の四天王立像(国宝*1)戒壇王立像(国宝*2)には全て獅嚙あり。  
(ブログ「奈良の文化と芸術」の写真)*1*2

マカラと鳥居

図2-14 インド中部のサーンチーのストゥーパ(仏塔)の四方には「トーラナ」と呼ばれる門がある・
仏塔はブッダの涅槃のシンボル。
仏塔という聖域への門としてトーラナがたてられた。 後世のトーラナにはキールティムカやマカラが見られる。

図2-15 日本では鳥居と呼ばれる。
インドのトーラナの伝統を受け継いでいる。神道の鳥居にはマカラなどは見られない。

図2-16 日本の仏教寺院の本堂の屋根には、向拝がもうけられる場合があり、その下にトーラナが組み込まれる

そのトーラナの梁の両端にはしばしばマカラが彫りこまれていますが、マカラの代わりに象や雲が彫られていることもある
木鼻(きばな)、象鼻などと呼ばれる。
マカラは想像上の動物、つまり幻獣ですが、その口が象の鼻に似ているために象と混同されることがあった。 図2-17 滋賀県善水寺本堂 向拝に組み込まれたトーラナの梁端に描かれた象。牙あり

『聖なる幻獣』を読む (以下第二章のマカラに続く)
続きは 第3章「トーラナという宇宙」

マカラについてもう少し・・

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