
聖樹聖獣文様
聖獣:蛇
伝承・民俗
平凡社世界大百科事典
[西洋]
蛇はその冷たい目、独特の這い方、毒などから古来
魔的な存在として恐れられるとともに崇められてきた。
世界中の民族の間で蛇崇拝やシンボルとしての蛇の存在の知られていないところはないくらいである。
エジプトのクヌム,インドのビシュヌ,北欧のオーディンなどは蛇と強く結びついた神で、旧約聖書の《列王紀》下 18 章 4 節にはイスラエル人が蛇に香をたいてあがめたことがしるされている。
同じ旧約の楽園の蛇は悪,とくに誘惑の原理をあらわし,これは後世しばしば女の首をもつ姿で絵に描かれる。蛇はイブと関係して全人類に罪をもたらしたとか,蛇とユダヤ人の老婆との間からアンチキリストが生まれたとされた。
しかしまた,聖書に〈蛇のごとくさとくあれ〉 (《マタイによる福音書》10 : 16) とあるように,蛇は昔から賢い存在とされる。 それで古代オリエントや古典古代では占いにつかわれた。たとえば白蛇との出会いは吉で、黒い蛇との出会いは凶とされたり、蛇の夢を見るのは死を示すとされた。
ゲルマン神話では人間たちが住んでいる大地ミズガルズをめぐる海に大蛇ミズガルズオルムが住み、大地をぐるりと取り巻いて自分のしっぽを噛んでいる。→ki_i.html
海が荒れるのはこの大蛇が激怒して尾で海の水を打つからだとされる。この蛇などは海のシンボルと考えられる。また宇宙樹イグドラシルの根もとに竜ニーズへグがいてそれをかじっている。これは宇宙の存立を害するもののシンボルであろうか、それとも刻々過ぎゆく時のシンボルであろうか。
また蛇は死んだ人の魂の化身ともされる。この民間信仰は幸福を呼ぶ家つきの蛇と結びつく。ドイツやスイスでは蛇が家にすみつくことを喜び,食事や牛乳を与えて養う。蛇は人間に危険が迫っていることを知らせたり,ネズミの害や火事や落雷から守ってくれる守り神として人々に大事にされた。このような蛇を殺すと家に不幸が訪れるという。家の守り手ということと関連して蛇あるいは竜 (ドラゴン) が宝を守るという信仰もドイツ中世のニーベルンゲン伝説やギリシアのヘスペリデスの園のリンゴの伝説などに見られる。
蛇はさらに何度も脱皮して若返ることから再生と不死身のシンボルになっている。このため強い治癒力をもつとされ,ギリシアの医神アスクレピオスは蛇のからまった杖をもつ。同様の杖はヘルメスの持物でもあり、カドゥケウスと呼ばれる。
肉を食べると鳥の言葉がわかるとされた。
竜
(平凡社世界大百科事典(1988年版第25巻p556)谷口幸男)
平凡社世界大百科事典
[中国]
中国では,古代人は大蛇や毒蛇
と闘った経験から,これを畏怖するあま
りに蛇を山または水の神霊とみなし,神
を人面蛇身に形象するほか,神か蛇を操
り,または耳輪にするなどと考えたこと
が古神話の書く『山海経』にも多く見られる。
神霊が蛇体であると考えられた結果,山神,水神が大蛇となって人間の処女に通
い,またはこれを犠牲として要求すると
いう型の伝承も多い。一方では,蛇の形
態や習性から陰性にして邪淫なるものと
し,さらに女性に結びつけ,蛇が美女に
化し人間の男に通って憔悴終うさせ,の
ち法術をよくする僧や道士によって調伏
されるという〔蛇精の淫]型の話もあった。
これが杭州西湖の雷峰塔に付会されたの
が有名な白娘子と法海禅師の物語である。
ただし民間の昔話では,母親が子どもを
欲しいと願って小蛇を生み,その蛇が成
長して妻をめとったのち夜は人に変じた
が,最後には皮を焼かれて原形には復さ
なかったという〔蛇郎君]の話も行われて
いる。
(平凡社世界大百科事典(1988年版第25巻p556)沢田瑞穂)
平凡社世界大百科事典
[日本]
[日本]古語は[へみ],各種の蛇を総称
し巨大なものを[おろち]と呼んだ。その
ものを直接ささない*忌詞浴として形が
似ているから[くちなわ]ともいい,西日
本では普通語として用いる。アオダイシ
ョウ(アオナブサ),ヤマカガシ,シマヘビ,
カラスヘビなどは色彩や形の大小から呼
ばれるもので,地方によって同種にも異
称が多い。有毒蛇は区別されてヒバカリ,
マムシ一名ヒラクチ,南西諸島のハブな
どが恐れられる。ハブは反鼻と文字をあ
て,ハムすなわち[かむ]からその名がき
たもので,また古語[へみ×はみ]のなま
ったものともいえる。ハブは罪ある者や
悪人を見分けてかみつくと信じられ,こ
れを打つと称した
忌 詞やこうした伝承
から,蛇が古くは
神霊の化現とみなされ,
その行動を神聖視したと考えることがで
きる。したがって蛇を見ることを忌み,
それを直接指さすと指が腐るといって切
り捨てるまねをしたり,夜,口笛を吹く
と蛇がくるといってこれを戒めた。
とくに
白蛇は神使いとして神聖視し,屋根裏にすむアオダイショウなどを家の神と
して敬ったのもネズミの天敵として有益
な働きをしたからであろう。ことに蚕を
害される養蚕農家などが蛇を尊んだこと
もうなずかれる。水辺湿地に多く生息す
るので,水の神の姿またはその使者とみ
て蛇に雨乞いをし,また水利の豊かなこ
とを祈る習俗も各地にある。
祭儀に
藁蛇 をつくって神社に飾るのもその祭神がも
と蛇の姿と想像ざれたからであろう。
たとえば諏訪神社などはその一例であ
るが,古くは神が小蛇の姿をして女人と
契ったという'三輪山伝説もあって,必
ずしも水辺の神のみが蛇と考えられたわ
けではない。むしろ,これは世界の諸民
族に共通の信仰ともいえ,野生動物が人
間の女性と通じて生まれた子が,一族の
祖となったという伝承の日本版ともいえ
よう。中世までこの伝承は残って九州の
名族 緒方氏や越後の五十嵐氏の祖先は
大蛇の子孫であると称し,そのしるしと
して代々鱗形のあざが身体にあるともい
われ,
家紋をうろこにかたどっていた。
こうした観念は近世まで民間に残って,
山野で働く女性が昼寝などをして蛇にみ
いられ,蛇の子を生んだとか,そのよう
な場合にどのようなまじないをすれば安
全であるといった話が,全国的に伝承さ
れている。そのために現在まで蛇を恐れあるいは憎んで必ず殺す土地があり,天敵がいないためネズミの繁殖がはなはだ
しい場合もあるという。これらはことに
漁村に伝えられ,船では蛇を忌んでナガ
モノといい,蛇の話をさける風習も広く
行われてきた。このほか家系についた
'つきものとしての蛇霊もあって,壺
小蛇を封じて家の神としてまつり,家
の繁栄を願うとその霊が家系に敵対する
他の家人にとりついてこれを悩ませ,飼
主の家を守護するといった伝承があり,
瀬戸内海沿岸ではトゥビョウなどと呼ば
る。これは家の守護霊として福運を
ずけ,夢にみても金がもうかるといった
についての在来信仰と,中国から伝
られた蛇蠱の話とが結びついたらしい。
このように蛇の霊力を認めるところか
蛇の肉や胆に薬効があるとして生きた
ま,またはかばやき,乾物, 黒焼き
どとして内服し,酒につけておいてその
夜を飲むなどの方式で,おもに強壮)
して用いることが現代でも盛んに行われ,
蛇の捕獲は職業としても成り立っている。
とくに毒のあるハブやマムシは薬効も大
きいと信じられ,利用者も多い。
(平凡社世界大百科事典(1988年版第25巻p554)千葉徳治)
エジプト神話 の原初の蛇
(平凡社世界大百科事典(1988年版第3巻p519)星形禎亮)
[エジプトの宗教]
宗教は社会のあらゆる分野を支
配している。多神教で,自然現象,天
動物,石,樹木など人知を超えたあらゆ
るものに神性を認めて神格化し,部族,
村落,都市,州ごとに守護神をもってい
る。
狩猟民の信仰に由来する動物神が多
く,歴史時代にはいって神の擬人化が進
んでも,完全な人間の姿で表現される神
はプタハ,ミン,オシリス,アメンなど
ごくわずかで,人体に動物の頭をもつ姿
で表現される神が多い(山犬頭のアヌビス,
隼頭のホルス,雄羊頭のクヌムKhnumなど)。
これらの地方神のうちプタハ,ラー,ア
メンなどは,国家統一後王朝の守護神・国
家神として最高神とされたが,州の守護
神もまたそれぞれの州で天地の創造者と
して最高神とされ,王の主宰する公儀宗
教に組み込まれて厚く尊崇された。
これら諸神の並存する世界に秩序を与えるた
め,神々を家族に構成し,特殊な職業の
守護神と見なし(プタハは工人,クヌムは陶工
トートは書記,アヌビスはミイラ作りなど),宇
宙創造神話を軸とする神話の体系化(神
学)を試みた。
太陽神アトゥムを創造神と
するヘリオポリス神学,
4組の原初の男女
神(のち月神トート)を創造神とするヘルモ
ポリス神学,
市神プタハの言葉による天
地創造のメンフィス神学などが知られて
いる。
うちヘリオポリス神学がアトゥム
に代わってラーを創造神とし,冥界の支
配者オシリスとその子ホルスを神々の系
譜に加えて優勢となり,創造神は太陽神
ラーという観念が定着,新王国の国家神
アメン・ラーのように,他の神々もラーと
の習合により創造神の地位を正当化した。
原初の蛇
アモンAmon→アメンAmen,アムンAmun
ヘルモポリス神学で原初の八柱の一人とされている。
新王国時代では太陽神ラーと習合して、アメン・ラ-と呼ばれ、創造神、神々の王とされた。
図像では、
2枚の羽根をいただく男性もしくは牡羊頭の人物として表現される。
(『エジプトの神々事典』ステファヌ・ロッシーニ/リュト・シュマン=アントルム著矢島文夫/吉田春美訳)
この神の名は隠すという意味の動詞《inen》に由来する。したがってアモンは「隠れたもの」「目に見えないもの」である。
アモンは世界に先立って存在した。
アモンは「時を完了したもの」であるアモン・ケマテフという蛇の形で崇拝されていた。(p27)
アモンは、組織的な世界の創造に先立つ原初の混沌に住んでいた神秘的な存在の一つと考えられた。
しかしながら、それらの神秘的な存在は漠然とした形で世界を準備し、その仕事を完了したのち、冥界(ダット)の闇に消えていった。

アモンは様々な動物の外観を取る
◇ 原初の蛇
◇ 鵞鳥:世界の卵を創造する造物主の役割に関連して
◇ 雄羊:或いは雄羊の頭を持つ人間、或いは雄羊頭の(クリオセファル)スフィンクス、または4つの頭を持つ雄羊として(アモンの神聖動物)
egypt/ohituji.html
アモン信仰が発展すると
メンフィス神学やヘリオポリス神学の教義と軋轢が生じた。この軋轢を解消するため。プラハをアモンと同化し、 アトゥム=ラ―=アモンを習合させた。

雄羊の頭のスフィンクス(カルナック神殿)
オグドアド(ヘルモポリス神話)
The Ogdoad of Hermopolis(es.wikipedia)
オグドアドには、世界が生まれた宇宙神の4つのペアが含まれていました。神はカエルの頭で、女神はヘビの頭で描かれました。

Dendera Deckenreliefエジプト、デンデラ神殿の天井のレリーフ
ヘルモポリスで崇拝されていた8柱の原始の神々
宇宙卵

Jacob Bryant's Orphic Egg (1774)
「古代エジプト人は、ヘルモポリス、ヘリオポリス、メンフィスの神学を含む複数の創造神話を有効なものとして受け入れていました。宇宙の卵の神話はヘルモポリトスで発見されています。」
「宇宙の卵の神話はヘルモポリトスで発見されています。
中エジプトにあるこの遺跡は現在、ヘルメス神の名前に由来する名前を誇っていますが、古代エジプト人はそれをケムヌ、つまり「8つの町」と呼んでいました。
8という数字は、ヘルモポリスの創造神話の主要人物である8人の神々のグループであるオグドアドを指しています。これらの神のうち4人は男性でカエルの頭を持ち、他の4人は女性で蛇の頭を持っています。これら8人は、他の創造物よりも前に存在していた原始の混沌とした水の中に存在していました。ある時点で、これら8人の神々が何らかの方法で宇宙の卵の形成をもたらしますが、神話の異本では卵の起源がさまざまな方法で説明されています」
(en.wikipedia)
An aspect within the Ogdoad is the Cosmic Egg, from which all things are born. Life comes from the Cosmic Egg; the sun god Ra was born from the primordial egg in a stage known as the first occasion (Dunand, 2004).
文中の用語
アントロポロモルフとは
完全な人間の姿
(AIの解説は 20250912)
アントロポス(人間)
「アントロポス」はギリシャ語で「人間」を意味する。
アントロポゾフィー(Anthroposophie)とは、アントロポス(人間)とソフィア(神的叡智)からなる(人間の中の神的叡智)であり、広くは「普遍的人間的であること」を意味する 。
Anthropomorphism – アントロポモルフィズムは、
「擬人化」 :
ギリシャ語の「anthropos(人間)」と「morphē(形、姿)」に由来しています。
人間以外のものに人間の「形」を与える、または人間の「形」として理解するという意味
なお「学術用語である「人類学」
:Anthropologyは、ギリシャ語の「anthropos」(人間)と「logos」(学問、理性)が組み合わさった言葉
ヘルモポリス神学とは
エジプト神話の創世神話では
en.wikipedia/Ancient_Egyptian_creation_myths(20250912閲覧)
最古の神はラーとアトゥム(どちらも創造神/太陽神)
異なる創造物語はそれぞれ、エジプトの主要都市であるヘルモポリス、ヘリオポリス、メンフィス、
アトゥムはエジプトの歴史を通じて崇拝され、その崇拝の中心はヘリオポリス(エジプト語:アンヌもしくはイウヌ)市にあった。
en.wikipedia.org/wiki/Atum(20250912閲覧)
ギリシャ・ローマ時代にもまだ存在していた『死者の書』では、太陽神アトゥムが蛇の姿で混沌の水から昇り、蛇は毎朝再生すると言われている
en.wikipedia/Egyptian_mythology
蛇関連項目
サタン
水神
蛸
ナーガ
巫蠱
蛇婿入り
梵鐘
竜→(荒俣宏 解説)
dragon_img.html
留守神
蕨
(平凡社世界大百科事典)
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