唐草図鑑

花の図像学:花唐草

スミレ 菫


参照の文献:「装飾の博物史」
京都芸術大学佐野敬彦教授(フジアート出版1991刊)

スミレはイギリスの花暦では三月の花。
古代ギリシアで、
詩人のピンダロスが歌うようにアテネ市の紋章。(※1)
アテネではイーオン、ローマではヴィオラとよばれた。

450種類あるといわれる中で、西欧に見られる一般的なスミレは、
ニオイスミレとよばれる香りの高い小さな花をつけるスミレ。
Viora odorata,ギリシア名ionia)
(⇒英語ヴァイオレットvioretドイツ語Veilchen)
酒宴の席の花冠にされたり、葡萄酒の杯に入れられた。
……この花の香りをかぐと悪酔いしない効果があるとされた。

※1 ピンダロスの詩
スミレの花の詩は未確認。
またスミレが市章であったというのもこの文献以外未確認

delphicaさんの話 ピンダロスの祝勝歌

WEB検索
https://www2.neweb.ne.jp/wd/kyoshogi/oriori.html
オリンピック ハンマー投げの室伏広治選手とピンダロスの「オリンピア賛歌」の話
https://miisan555.exblog.jp/956011/
https://web.kyoto-inet.or.jp/people/tiakio/ancients/muse1.html
古代ギリシアの詩 =歌うための合唱詩(歌詞)

中世


バラ(慈愛)もユリ(清純)もスミレ(控えめさと誠実の象徴)も
聖母マリアの花とされる
絵画ではほとんど出てこない

珍しい例としては、
ヤン・ファン・エイク「ファン・デル・パーレの聖母」※2
1434〜36 (ブルージュ市立美術館蔵)
右手に幼児キリスト、左手にスミレの花束をもつ

・15世紀フランドルの壁掛のつづれ織の万華文様(ミル・フルール)に、
しばしばスミレが表される(「貴婦人と一角獣」など)

ルネサンス
・ボッティチェリ「春(プリマヴェーラ)」春の女神の
口から出されている花の中にある
・フーゴー・ファン・デル・グース「牧者の礼拝」
中央の花のいけ花の左右に撒かれている

ジョン・エバレット・ミレー 「オフィーリア」1852(テート美術館蔵)
……
シェークスピアの「ハムレット」オフィーリアの兄レアティーズが、
埋葬に際して、
お前の体からスミレが生えるように!と叫ぶ。
シェイクスピアを読み返す(HAMLET)へ

Jan van Eyck 069 Virgin and Child with Canon van der Paele Jan van Eyck 1434-36
Groeninge Museum, Bruges 122.1×157.8cm
※2ヤン・ファン・エイク「ファン・デル・パーレの聖母

Detail ( 詳しくは、エイクその他の「スミレ」の花のある絵画 へ)

星菫派(明治時代のロマンチックな詩人達)
19世紀 ワーズワースの詩から命名。
それは苔むす岩陰に
人目を避けて咲く菫。
その美しさは、ただ一つ
空に輝く星のよう
(前川俊一訳)

文様にスミレが盛んに使われるようになったのは
アール・ヌーヴォーから


産業革命の結果現れた新しい中産階級(実業家)のための新芸術。
王侯・貴族の文様としては、最も豪華な花である、薔薇、チューリップ、
カーネーション、ユリ、芍薬、さらに蘭といったものが圧倒的だった


それまでの領主・貴族は豪華で重厚な装飾を重視した。
アール・ヌーヴォーはもっと軽快で自然への感動を素直に表すものであった。
タンポポ、すずらん、ひなげし、野菊、睡蓮、そしてスミレなど。

20世紀初めのガラス作家
  ガレやドームは、モチーフにスミレをよく用いた

ドーム 菫文ランプ 1900 (北澤美術館蔵蔵)

日本
江戸時代の装飾によく用いられた

光琳「早蕨図団扇」
乾山
村越其栄「四季草花図」(東京国立博物館蔵)


古代ローマには「スミレの日」があり、その日に死者のために
墓がスミレで飾られた。
(世界シンボル事典より)

(平凡社世界百科事典より 橋本保著の抜書き)

スミレViola mandshurica W.Becker
スミレ属Viola
世界に500種分布(北半球に種類が多い)
南半球では分類上際立った形質をもつ少数種からなる仲間が多い
ハワイ諸島には低木=幹の直径5センチ高さ2メートルになる種類がある

日本産のスミレ属
54種の他に多くの亜種・変種が知られる
分類には托葉や葉身の形、花形、花色などの他、めしべの花柱や柱頭の形が重視される
日本の最も普通種はタチツボスミレV.grypaceras.A.Gray
地上茎が発達し、めしべの花柱の先がほとんどふくらまない

ニオイスミレはヨーロッパから西アジア原産V.odorata L.
花からは香水が作られる

スミレ科Violaceae
双子葉植物、16〜23属、約900種
木本が多くつる性のものもあり、これらは全て亜熱帯から熱帯に分布する。
木本と草本の割合は半々。(乾燥地には少ない)

和名について 牧野富太郎、が、語源として、
大工道具の墨入れ(スミイレ)と花の形が
似ているからという説を唱えたというが……??

スミレ色というと紫色を中心に思い浮かべるが、
日本の高山帯、亜高山帯のスミレはほとんどなぜか黄色であるという


シュテーデル美術館にある Bartolomeo Veneto (active 1500-1530)

https://www.staedelmuseum.de/index.php?id=448
春の花を持っているのだが、スミレも入っているようだ。

伝承・民俗

(平凡社世界百科事典より 谷口幸男著の抜書き)

古代ギリシア人はスミレを愛し、
スミレで飾られたアテネを、多くの詩人達が歌っている。


美少年アッティスの血、またはイオの息吹から生じた
ペルセフォネが冥界の王ハデスにさらわれたとき摘んでいた花と伝える

古代ギリシア  スミレ=よみがえる大地のシンボル
ドイツ     春の使者
ウィーンの宮廷で3月にドナウ河畔に初咲きのスミレを探し
それに挨拶する習慣があった。
……16世紀のニュールンベルクの職匠詩人H・ザックス
謝肉祭劇「ナイトハルトとスミレ」

ドイツから東ヨーロッパにかけて広がる春迎えの行事にも、
スミレは春のシンボルとして登場する
つつましい可憐な少女のイメージ

スミレ好きの詩人は、ピンダロス(BC518〜BC440)、ゲーテ、ハイネなど

ナポレオン一世の最初の妻ジョゼフィーヌもスミレを愛した
フランス革命で貴族の夫と共に監獄つながれた彼女に
釈放の知らせがきたのは、獄卒の娘が届けたスミレの花束のあと。
それ以来スミレを愛し,服にも刺繍した
ナポレオンと結婚後は誕生日ごとにこれを送られたが、
離婚後はスミレを二度と見ようとしなかったという。
ナポレオンもスミレを好み支持者達の標章ともなった。
エルバ島に流されたとき、春にスミレが咲く頃戻ってくるといったという
逸話も有名である。


ゲーテJohann Wolfgang von Goethe
(1749 - 1832)の詩が読めるサイト
Das Veilchen(ドイツ語)
https://www.d-score.com/ar/A03062101.html

WEB検索 https://homepage2.nifty.com/pietro/saggio/mozart_lied.html
モーツァルト歌曲集

=== 引用 ===
「野にひっそり咲くすみれは、牧場の乙女に恋をする。
いつか摘み取られその胸に抱かれたいと夢見ていた。
そこへ乙女が来たのだ。だがすみれには目もくれず、
そればかりか無惨にも足で踏みつけて走り去った!
モーツァルトはひとこと最後に歌詞をつけ加えた。
“ああ、哀れなすみれ!”と。」

ハイネHarry Heine の詩

WEB検索 2005/01/24、確認2011-04-25
https://www.plantsindex.com/viola/ スミレの部屋
すみれの検索システムあり
https://430sou.web.fc2.com/ スミレ想

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