唐草図鑑

西洋の芸術(中世)

「教会の怪物たち━ロマネスクの図像学」3


 

教会の怪物たち ロマネスクの図像学

尾形希和子著(沖縄芸術大学
2013年12月刊 (講談社選書メチエ)
/目次読書2014-08-17/

目次

第一章 怪物的図像とイコノロジー的アプローチ
第二章 神の創造の多様性としての怪物・聖なる怪物
第三章 怪物的民族と地図
第四章 「自然の力」の具現化としての怪物
第五章 世俗世界を表す蔓草
第六章 悪徳の寓意としての怪物から辟邪としての怪物へ  
第七章 古代のモティーフの継承と変容、諸教混淆
第八章 怪物のメーキング
結び 怪物的中世


第一章 の研究の方法、図像へのアプローチの仕方に続いて、第二章で「教会の怪物」、ケルビム・ユニコーンを丁寧読み、次いで、第三章にテピュグマイオイ、アンティポデス、半神半獣人、テラモン等々・・・・そしていよいよセイレーンへ

第三章 怪物的民族と地図

中世の宇宙像

地図上に描かれ、旅行文学にも登場する怪物的民族や怪物は、ヨーロッパ中心主義のオリエンタリズムの現れとしての「他者」の表象であると同時に、神が創造した宇宙の多様性の証であることを述べる。

(p96)ロマネスクの図像群には、この世界に存在するもの全てを網羅する百科全書としての側面がある

床モザイクの中に広がる世界

(p97)地図は写本のみならす聖堂の床モザイクなどにしばしば表された

(p97)12世紀末ごろからは、幾何学的文様の象嵌による床モザイクが優勢となっていった: ロ―マとその周辺地域
11世紀ごろからビザンティンの影響によって古代の床モザイクのリヴァイヴァルが起こっていた。:シチリア、ヴェネツィア、モンテ・カッシーノ

モンテ・カッシーノとベネディクト修道会

Opus tessellatum(オプス・テッセラートゥム):石などの小さな角片〔テッセラ〕を組み合わせてつくる技法Wikimedia

(p97)床モザイクに広がる世界地図は怪物や怪物的民族も多くあらわされている

12世紀に彫刻であらわされた怪物的民族で有名なのは、ヴェズレ―やオ―タンのタンパン、フランススーヴィニ―修道院の八角柱

節2のタイトルにもある「スーヴィニ―」という地名が検索で出てこない(スービニ―でも)マールの本でもこのタイトルなのだが・・⇒Souvigny〔「ブルボン家のゆりかご」)ブルボネ地方アリエ県の村(オーヴェルニュ地方)Souvigny was nominated “great regional site of Auvergne” in 1993 on the basis of its architectural riches, and subsequently, in 2003, it was made "great Romanesque sanctuary of Auvergne".(en.Wikipedia

p98の図3-2の「スーヴィニ―八角柱の展開図」ですが、CL.-H.Dufourによるデッサンをもとにした版画、1833~38が不明?⇒Cでなく、G?・・Guillaume-Henri Dufour(1787-1875)=多彩な活動の政治家、地図製作者??

1.中世の写本における怪物的民族の図像

現存する最古の挿絵

(p99) ギリシャのクテシアスやストラボンらによる怪物的民族についての記録はプリニウスやソリヌスらの博物的著作に引き継がれ、キリスト教世界でもセビ―リャのイシドールスの『語源』やラバヌス・マウルスの『物事の本性について』を経て、12世紀の修道士たちの宇宙論的著作の中にまで継承されている。

クテシアス:紀元前5世紀の医師・歴史家
ストラボン:紀元前1世紀の歴史家
プリニウス:1世紀の歴史家
ソリヌス :4世紀の博学者

(p100)現存する最古の挿絵は ラバヌス・マウルスの『物事の本性について』写本(1023年 モンテ・カッシーノの修道院作)
『東洋の驚異 Marvels of the East』

『アレクサンドロスからアリストテレスへの手紙」(おそらく7世紀成立):アレクサンドロス大王がインドで見聞きした驚異的な事物を師であるアリストテレスに綴る形

『怪物の書』は およそ7~8世紀に書かれたが現存する写本は9~10世紀にかけての5冊で挿絵はない

スーヴィニーの八角柱に描かれた系物的民族は、ソリヌスに基づいている
ソリヌスGaius Julius Solinus 『奇異事物集成 Collectanea Rerumn Milabilium』

怪物たちの描かれ方

(p101)モンテ・カッシーノの写本の特徴:並べて描かれ、特定の地域と結びつくという観念が見られない
『東洋の驚異』では怪物的民族はある風景の中に置かれている。岩山のような場所で、「野性」や「野蛮」に結び付ける(byフリードマン『中世の美術と思想に見られる怪物的民族』)

p102の図3-3モンテ・カッシーノ修道院図書館蔵を検索
画像(GPL)イタリアの図書館サイトなどへのリンク
モンテ・カッシーノとベネディクト

(p101) 『東洋の驚異』写本コットン・ティべリウスB.v.(大英図書館蔵) のフレームは『ベルン・フィシオログロ』(800年ごろ)との類似を見せる。



p102のブレミアエというのは、澁澤の本の表紙にありましたね

ブレミアエ、頭のない人間の話は⇒blemmyae.html

2.スーヴィニーの八角柱

彫刻上の怪物的民族

(p103)1130~1150年ごろ
建築物に付随しない珍しい例 

(p104) キャプションも伴い整然と区画に囲い込まれている

Zodiac Column Souvigny
ミュージアムショップの絵ハガキより:https://www.ville-souvigny.com/

マッパ・ムンディ(ラテン語: Mappa mundi)としての柱⇒マッパ・ムンディ

(p104) マールも詳細に解説しているが、ここでは怪物の図像と怪物的民族の図像だけを見ていこう
現在残っている部分高さ186センチ
グリフォン、ユニコーン、セイレーン(魚の尾を持つもの)、マンティコラ(人面獅子)、ドラゴン、象

(p105)怪物的民族としては:ソリヌスに基づいて、四つの目を持つ「エチオピア人」、「サチュロス」、「スキアポデス」(Sciapod一本足で走り、休む時は寝転んでその足を日傘の代わりにかざす)

3.床モザイク上の怪物的民族

世俗的世界を表す場

(p107)より多くの人に見られ、しかも足で踏まれるもの
北イタリアのピアチェンツァのサン・サビーノ聖堂やノヴァーラの大聖堂などにもかなり残されている。オトラント大聖堂Cattedrale di Otrantoも圧巻 it.Wikipedia https://www.paradoxplace.com/Perspectives/Sicily/Otranto/ 

古代ギリシャの旅行家たちの記述

St. Jakob Kastelaz - Phantastische Lebewesen rechts 1
図3-7 スキアポデス サン・ジャコモ・ア・カステッラス聖堂 アプシス、フレスコ画(13世紀初頭

アンティポデス(対庶人)

4.半神半獣の怪物
(ケンタウロス、ミノタウロス、サテュロス)

サチュロスのようなシルウァヌス

(p112) ケンタウロスは『フィシオログス』の記述に従って、セイレーンとペアであらわされることも多い

ケンタウロスの森の仲間とも言うべきサテュロスは、ワイルドマンなどとも混同され、ローマ神話の森の神シルウァヌスもサテュロスのような姿で想像された

(p112)(イシドールス)ギリシャ人たちは、田舎の人々の神をパンと呼び、それに自然の似姿を与えた。ラテン語を離す人々はその神をシルウァヌスと呼ぶ。彼は、すべての類の要素に似せられているので、パンと呼ばれるのである。彼は太陽や月の光線のような角を持つ。・・・・・・・彼は大地の硬さを示すために山羊のひづめを持っている。

神々や精霊に出会えそうな森

(p113) 古代の森林の神々や精霊の際は、13世紀にはすっかり認識されなくなる傾向にある

牡牛でなく馬頭のミノタウロス@クレモナ大聖堂のカンポサント(墓地)の床モザイク

サン・コロンバーノ修道院のモザイク

混同された概念

(p117)聖堂の床に表されるラビリンスは、巡礼とも関係づけられる。怪物を宿し世俗世界の表象である蔓草、ピープルド・スクロールの縮図ともいえる。

5.翻訳時の混乱が生む怪物

角の生えたモーゼ

(p119)ヘブライ語では「顔から光線を発している」が「角を生やしている」と同じ言葉で表現される
言語上の誤解が、ゲルマン民族の習俗の中に見られる象徴性(動物の力を象徴する角)と合致し結び付いた例⇒その後はモーセの角は廃れてしまった

セイレーンの羽と鱗

もともとハイブリッドの怪物であったものが、言語上の類似により姿を変えた例:セイレーン
鳥の下半身⇒魚の尾へ変化
ギリシア語では「羽」と「鱗」を示す言葉が同一

ポラメッツ、バーナクル

植物子羊「ボラメッツ」=タタール(スキタイ)地方に生息すると言われた植物から生まれる子羊

植物雁「ベルナカエ(バーナクル)」=イングランドはアイルランドに棲息すると言われた木の実から生まれる雁

まるで言葉遊びのような連想で

言語上の誤解が生んだ怪物

6.民俗名の語源について

由来はギリシャ人の地理的概念

クニドスのクテシアス・・スキアポデス、犬頭人(キュノケパロイ)、ピグミー、マンティコラ、グリフォン、ユニコーンン・・)

音の類似が生む怪物

(p126)サンスクリット語「東に住む人々」(プラーシア)・・ギリシア語のみどり→緑色の民族

7.モデナ大聖堂の怪物的民族

鶴との関連ーピュグマイオイ

(p127) 鶴のような鳥の嘴(くちばし)をつかんでいる人物像(おそらくピュグマイオイ)
鶴と闘う姿:常套場面(クリシエ)

(p128)イシドールス『怪物の書』:「1キュービットの高さの憎むべき人間」収穫の時期になると、鶴が盗まないように戦争をするという
ローマ美術では、ナイル川の情景の中に、船遊びや漁猟にいそしむ姿で頻繁に描かれる ⇒プット、クピードの起源とも言う

メトープ=屋根近くという辺境

「見られるため」だけではなく

(p132) メトープというより、「アンテフィクサ」と呼ぶのが最も適当である
15メートル以上の高さのある場所・・見られるためというより魔除け

8.「他者」の表象としての怪物━オリエンタリズムとミソジニ―

物と動物の境界を越える怪物

バルトロメウス・アングリクス(1203~1250)の百科事典の15世紀の写本

健康な人間はアンフロ・サクソン人の特徴である金髪で肌の白い人間として描かれる
心身の不健康さは、反対にムーア人らの身体的特徴がで描写され続けてきた。 民俗的相貌の特徴が悪魔と結び付けられたのは、ユダヤ人もまた同様

ミソジニ―の代表例=セイレーン―グロビナの教区聖堂にて

(p135)セイレーンのような代表的な女性の怪物や古代の大地母神の図像は、修道士たちの女嫌い(ミソジニ-)によって、美しい容貌を失い恐ろしい怪物的な形相・様相を帯びるようになった。

カミール:「中世の周縁美術において女性は明らかに根の深いミソジニ―の犠牲者であり、女たちは圧倒的な男性優位の社会的縮図の中に封印されている。」


ローロ・チュッフェンナ (Loro Ciuffenna) グロピナGropinaのサンピエトロ教区聖堂  説教壇



(p138)二股の尾を両手で掲げ持つセイレーンの上に、ほとんど同様のポーズをとる男性が浮き彫りにされている。
男性像は魂の危険にさらされるキリスト教とを著し、セイレーンは人間(=男)を脅かし危険に陥れる「罪」や「悪徳」の寓意であると解釈されている。

グロピナGropinaのサンピエトロ教区聖堂の説教壇 のページへ

柱の重みを耐えているテラモン(アトラス)

会話をするテラモン、モデナ大聖堂「魚屋の扉」1110~1120年ごろ →モデナ大聖堂の扉口人像柱

「他者」であれ救済のプログラムに

(p142) 労働としての救済と同様、自身の罪の贖いとしての救済を得るための手段でもある
ミラノ、サンタンブロージョ聖堂でも説教壇の重さを支えるのは剃髪の聖職者

(p144)テルメーノのサン・ジャコモ・ア・カステッラ聖堂ではアプシスの勝利の門の下にフレスコで描かれ、上部の重みを支えるポーズをとっている男女はアダムとエヴァ
ヴェネツィアのサンマルコ大聖堂の中央扉口の内孤の男女のペアも同様
そうだとすればワイルドマンとセイレーンのペアも、もともとは救済のプログラムの中に取り込まれていたと考えられないだろうか

辺境はもっとも神に近い場所

ジャック・ド・ヴィトリ(1160?~1240)『東洋の歴史』

世界地図(マツパ・ムンデイ)で世界の縁に置かれる怪物的民族は「領有」につながる要素を内包していたにせよ、 一種の客観性あるいは相対性の片鱗が見られる

12世紀には怪物的民族も、神が創造した宇宙の中に具体的な住処を得、世界地図の特定の場所に描かれるようになる
辺境、周縁という場所=「超自然的場所」、「物質世界」と「精神世界」の二つをつなぐもの

並存する二つの態度


『教会の怪物たち』を読むページその4 に入る前に、小休止で、→馬杉宗夫「ロマネスクの美術」を一読

a 三面像
b アンティポデス
c ケルビム
d テトラモルフ
e ペガサス
f ユニコーン

ここは少し先を急ぎます(201401001 また戻ってきます) 20141031一か月馬杉著を読み、戻ってきました。
また読み始める前に、『イメージの解読 怪物』(河出書房新社 1991年 共著)の方の 「海の豊穣」の18ページを読んで、猫な頭をトレーニングし直してから再開します。


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