唐草図鑑
図像学

西洋美術 

『芸術の記号学』 

キリストの顔』で 「記号学」(パース)を見ましたが、ピエール・ギローの『記号学』(文庫クセジュ 1972)以後の知識がないので、しばし復習です・・

芸術記号論

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説
芸術記号論 semiotic theory of art


芸術作品を記号あるいは記号集合体としてとらえ、その構造と機能の観点から解明しようとする学問。
歴史的には三つの流れが考えられる。
第一は、カッシーラーの象徴形式の哲学を継承発展させたランガーの「芸術意味論」。
第二は、パースに始まりモリスに結実する「プラグマティズムの芸術論」で、これらはいずれもアメリカを中心に1940~50年代に展開された。
第三は、ソシュール的構造言語学に理論モデルを求めた流派で、
ロシア・フォルマリズム(1910~20年代)に始まり、
チ ェコ構造主義(1930~40年代)、
フランス構造主義(1960年代)を経て「現代記号論」に至る。
記号論を、
記号体系の諸要素とその結合法則を論じる統辞論、
記号とその指示内容を論じる意味論、
記号とその使用者の関係を扱う実用論の三つの水準からなる理論とすれば、
ランガーは「意味論」、モリスは「実用論」、第三の流派は「統辞論」に焦点をあてて芸術記号論を展開したといえる。[村山康男]

[参照項目] | 記号論 | 芸術 | シンボル | 文化記号学
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)Wikipedia

漏れを補う、 適当な文献(図書)を探してみました・・。
この本がよさそうです。
但し、モーセをモーゼと表記するのはそれなりの古さであった。
以下目次読書

「芸術の記号論」 – 1983
加藤 茂 谷川 渥, 持田 公子, 中川 邦彦 (著)勁草書房

『芸術の記号学』 

内容説明

I章では、ソシュール、パース以来の記号論の歴史が解説され、芸術記号論の様々な試み、方法が検討される。II~IV章では各々、絵画・文学・映画を素材に解読の実際が示される。


目次
はじめに
内容説明

I 記号と芸術[加藤茂]
一 記号とはなにか
二 現代の記号論
三 芸術記号論

記号論とそれに基づく芸術論の基本問題
「記号」の名でよばれている現象; 記号論小史、とりわけソシュール、パース、カッシーラーを嚆矢とする、それぞれ特色ある三つの現代記号論の論点整理。反心理主義的、反形而上学的、経験主義的という一連の特徴を明示する芸術記号論の三人の代表者、ムカジョフスキー、モリス、ランガーの諸学説吟味 (「はじめに 」にある要約)


II 絵画の解釈と記号論[谷川渥]
一 絵画と言語――前史的展望
二 記号学
三 絵画の記号学
四 イコノロジー
五 絵画の記号論

絵画をめぐる言述を記号論的に検討
絵画と言語との関係について、プラトン的模倣論、姉妹芸術論、芸術言語説の順に歴史的概観の試み
ソシュール言語学に端を発する記号学的(セミオロジー)方法の生成を辿り、
マランによって明示化された「絵画の記号学」を検討 
次に、従来の美術史学的方法としてのイコノロジーを置き直す
最後に、パース流の記号論(セミオティック)に基づいて、絵画を「イコン」として捉え直すことによって、そこの様々なな位相差を持つコートが対自化され、開かれた経験」としての記号論論的言述が確認される。(p3) (「はじめに 」にある要約)

III 詩的言語の分析[持田公子]
一 文学とはどのようなものか
二 文学の言葉
三 比喩
四 物語の構造

IV 映画記号論[中川邦彦]
一 映画言語活動
二 映画種別コード
三 映画作品

索引

Ⅰ章とⅡ章の抜き書き読書

I 記号と芸術[加藤茂]

記号論小史(p29)


古代ギリシア医学:[記号]semeionは 「徴候学]semeiologieと関連 semeliologie
ストア学派:[記号論]は自然学、倫理学と並ぶ三部門の一つ

エピクロス学派:「原子」「空虚」=直接感知できない実在を「言い表わせる」一種の記号
中世アウグスティヌス: 「しるし(サイン)とは、五感によって受け取られた種以外に、自ずから心の中に他の何ものを呼び起こすあるものである」(定義)
近世ライプニッツ、J.ロック諸科学の基礎部分とみる
パース、オグデン、リチャーズらが継承発展、アングロ=アメリカン系の現代記号論の基礎
ソシュールやパース・カッシーラーが独立した学問分野に(創成期)
1940年、50年代:モリスやランガーと 60年代、バルトらフランス構造主義者の時代が全盛期

現代の三大流派の源流は
ソシュール (1853-1913)・・社会心理学の一部門 記号の社会的コミュニュケ―ションの役割
パース(1839-1914)・・論理学的、認識論的観点から66種類もの諸記号を分類
カッシーラー(1874-1945)・・シンボルは人間の特権である<意味>の世界への飛翔を可能にするもの

知の分類原理としての記号―ソシュールとバルト

フランス思想の伝統ともいえる二進法的な分類形式を持つ
記号とは 意味するものと意味されるものが、一枚の紙の表裏のように一体となっているもの

行動の道具としての記号―パースとモリスの記号論

パースによく知られた、「類像」icons と「指標」indicesと「シンボル」symbolsという記号の三分類は、動的対象に対する記号のいろいろな関係から出てくる区別である(p39)

人間精神を開示する記号―カッ シーラーとランガーのシンボリズム

社会的総体を指示する美的記号―ムカジョスフスキーの芸術記号論(チェコのプラーク構造主義美学)(p64)

価値を指示する類像的記号―モリスの美学的記号論(p69)

感情を表現するシンボル形式―ランガーの芸術シンボル論(p77)

II 絵画の解釈と記号論[谷川渥]

絵画と言語―前史的展望

伝統的模倣論と姉妹芸術論(p105)

二様の言述の対立
*1「実物を見れば苦痛を覚えるようなものでも、それをこの上なく精確に模写した絵などであれば、我々はみな喜んで眺める」(アリストテレス『詩学:』第四章)
*2「原物は誰も感心しないのに、絵になるとなかなかにているといってみんなが感心する。絵というものはなんとむなしいものであろう」パスカル『パンセ』134)
・・類似性の原理に支えられた原像―模像の二元論(伝統的模倣論の基本的図式が共通に存在する)(p106)
「ミメーシス」枠組みの提供 プラトン「第七書簡(342‐343)・・真実在に体する接近の方途として、それに最も近い「知識」(エピステーメー)と その「知識」が依拠しなければならぬ三つのもの、「示し言葉(オノマ)」、「定義(ロゴス)」及び「模造(エイドロン)」
「絵は黙せる詩、詩は語る絵」(シモニデス) 「詩は絵の如く」(ホラティウス)
「手工業的技術」の一つに数えられていた絵画を「自由学芸」の仲間にくわえようとするルネサンスの芸術家の目論見(絵画における詩的内容の要請をも含意する)

芸術と言語との類比(p109)

芸術を表現の問題として意識的に捉え、それゆえ芸術を言語と類比的に論じようとする基本的姿勢は、カント以降、フィードラーやリーグルなど近代芸術学の創始者たちのうちにも顕著に見て取れる
そうした立場の極北はベネデット・クロ―チェ(p110)

記号学

絵画の記号学の原理(p122)

ルイ・マラン『絵画の記号学の原理』(1968)
絵画の記号学のための方法論的マニュフェスト
ソシュール―ヤコブソン―バルト的な概念装置の絵画的対象への適用可能性を検討
対象を物語(歴史)画と非物語(歴史)画の二つに分けて考察
プッサン「岩をたたくモーゼ」「水から救われるモーゼ」「蛇のいる風景」
ソシュール言語学の特徴である二元的対立を看取するところから出発
記述的言語によって分節された形象・・
<風景VS物語り.>という対立、他
自然VS人間の行為、書き割りVS舞台、聖VS俗、老いVS若さ、城VS町
絵の表面の諸字源あるいは空間的な諸区域の対立的分節化
前景VS中景VS遠景
左VS右

絵画解釈の新しい展望を開いている

Nicolas Poussin - Landscape with a Man Killed by a Snake - WGA18320
Nicolas Poussin - Landscape with a Man Killed by a Snake
古いタイトル=「恐怖の効果」(p136)

(1)蛇・死体:怯えさせるもの
(2)男=怯えさせられたもの(→怯えさせるもの)
(3)女=驚かされたもの(→驚かすもの)
(4)猟師=注意を向けるもの
(5)・・・無関心なもの

形象の多義性なるものの内実、読解の体系の開放性を明らかにしている
我々の読解を通じて、その都度新たな意味の移送を獲得してゆく開かれた経験を保証してくれる(p138)

イコノロジー[谷川渥]

イコノロジーの生成(p138)

マランの選んだテキストとしてのプッサンはイコノロジーの提唱者パノフスキーがことのほか好んだ画家であった。(p138)
美術史一般で、 「イコノグラフィー」という言葉が広く用いられていた:チェーザレ・リーパ 1593年『イコノロギア』

現代的意味・・ヴァールブルク 1912年「イコノロジー的分析」=図像と宗教、詩、神話、科学、社会並びに政治生活との関係の研究で従来の美術史研究に新しい地平を開いた。

イコノロジーの方法(p142)

パノフスキー 1939『イコノロジー研究』 : イコノグラフィーは美術史の一部門であり美術作品の形式に対置されるところの主題や意味を取り扱うものである、という。
=ヴェフリンに代表される形式分析的方法(様式史としての美術史)に意識的に対立するもの、リーグルやドヴォルジャークらのヴィーン学派の精神史的方法の流れを汲むもの。
「事実的意味」(表出的意味)と私の「感情移入」によって把握される意味は異なる、これを「表出的意味」と呼ぶ。
意味の三つのレベル(パノフスキー)
第一次的・自然的主題(事実的主題と表出的主題=美術上の「モチーフ」)
これに対立する解釈が「イコノグラフィー以前の記述」
第二次的・約定的主題事物や擬人化など)=イメージ・物語・寓意の世界を構成
これを解釈するのが「狭義のイコノグラフィー」
第三に「内的意味・内容」

イコノロジーの批判(p146)


「芸術的品質をないがしろにしている」
パノフスキーの見解がある程度答えになっている・芸術作品=美的経験を要求する人工物
美的経験において捉えられるのは、一つに結びついた三要素(物質化された形式、観念(主題)、内容)
「イコノロジー上の解釈は、作品の中に芸術家によって意図されていた以上の(恣意的)象徴的意味を見出す危険性がある」
パノフスキーの「明白な象徴表現(シンボリズム)」に対比する「偽装された象徴表現」(→危険)
パノフスキーの後継者の一人ゴンブリッチ「イコノロジーの目的と限界」:過剰な意味を取り出すことを避け、作品の「志向(意図)された意味」を目指すには、当該作品がジャンル(祭壇画、聖使徒伝画、神話画、寓意画など)のいずれに属するものかを確認することが第一に必要(だが困難)
伝統的「適性論Decorum」の枠からはみ出しているような独創的芸術家の作品に対してはどうか
美術作品を人間の内的形成意思の可視的表現とみなすパノフスキーの考え方は、
作品と人間の意思に、(具体的にはその意思を総括した世界観に)結び付けようとしたリーグル説「芸術意思」Kunstwollenによって理論的枠組みを与えられ、
ヴェルフリンの形式主義に対立するドボルジャークらの精神史の系譜につながり、
さらにカッシーラ流の「象徴形式」の哲学と結びつくことのよって完成した美術史上の方法、 作品を「意味するものの統体」とみなすところに立脚する構造論的意味論
解釈対象としての「イメージ」とは、「モチーフ」と文献的知識内容と一種の意識的・約定的な連合である(記号学とパラレル)
記号論的観点からすれば、パノフフス―のイコノロジーは意味層の区別において不十分
マラン流の記号学的方法と比べて特徴的なのは、主として範列的配列的分析を行うという点。それはイコノロジーが何をおいても作品の歴史的認識を目指すところからくる
(イコノロジーの主眼は、結局のところ作品の史的位置づけ)
連辞的分析を主体とする(その限りでは共時的)な記号学的分析は、それ故、あたかもイコノロジーを補完すべく台頭してきたかのようである(p151)


論点の図式化(谷川渥p145)

絵画の記号論[谷川渥]

<イコン>としての絵画(p151)


この語の検討にはチャールズ・パースの記号論(Semiotic)が最も資するところが大きい
イコン性:何らかの質の共有、 相似性、 類比関係
「対象をイコン的に表現するということは、図像的な約定に従って、その対象に付随する文化的諸特性を転写(トランスクリール)することを意味する」(エーコ)

コードの位相差(p158) 

作品解釈に当たって関与しているはずのさまざまなコードをまずもってあたう限り意識化すること
パノフスキーは単に意味層を三つに区別
最も下位のものは再認のコード(心理学、文化人類学などによって研究されるべきもの)
その下の知覚的コード(知覚心理学)が位置付けられる
この知覚的コード及び 再認コードとともに<意味するもの(シニフィアン)>の分野の諸要素を確定すべき、イコン的コードがある。(伝達のコードに基礎づけられている うっ増額的コード、様式的コード)

開かれた経験(p163)


デリダ・・・記号作用の開放性(無限に続けられる、次々に重層化)=「超越論的な<意味されるもの(シニフィル)>の 解体」
超越論的な<意味されるもの>の不在=「戯れ」
パースによれば解釈項には「最終的」なものが存在する。「習慣habit」の確立に向かって 閉じようとする。
この「習慣」を最もゆたかな意味の「コード」ととらえ直す。
質と可能的なものの範疇らる新しい「第一次性」を全体的に創出し得ている作品は、つねにそのような閉鎖性を打ち破るものとして現れるであろう。
解釈とは、このような記号作用のダイナミックスを身をもって生きるところの、それ事態基本的に開かれた一つの経験なのである。(p164)


ゴンブリッチ がオズグッドの「意味論的空間」を単純化した図
Gombrich,Expression and Communication
Gombrich, Visual Metaphors of value in Art 「隠喩」の問題

SD 法 〖semantic differential technique〗大辞林 第三版の解説
言葉・図形などの刺激をいくつか与え、それらが含む意味の相違を、対をなす形
容詞を両極とする評定尺度を用いて測定する心理学的測定法。
オズグッドにより考案された。意味差判別法。意味微分法。
アメリカの心理学者オスグッドが考案
� 対象となる物の印象が、どのような心理要素から成り立っているのかを客観的に測定し、回答グループ同士で違いを比較する方法。


ゲーテの『色彩論』
「色彩の寓意的、象徴的、神秘的使用」の表(p162)

ウンベルト・エーコ著 『記号論』岩波書店, 1980/同時代ライブラリー, 1996年 『薔薇の名前(上・下)』東京創元社, 1990
中世美学史-『バラの名前』の歴史的・思想的背景』而立書房, 2001
『カントとカモノハシ(上・下)』岩波書店, 2003

ルネ・マグリット Rene Magritte 「これはパイプではない」

「またあのパイプですか?もういいかげん、飽き飽きしました。でもまあ、いいでしょう。ところであなたは、このパイプに煙草を詰めることができますか。いえいえ、できないはずですよ。これはただの絵ですからね。もしここに「これはパイプである」と書いたとすれば、私は嘘をついたことになってしまいます。」 https://www.artpedia.jp/magritte-the-treachery-of-images/

図像学 「シンボルとアレゴリー」


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