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ロマネスク装飾原理


meバルトルシャイティスの本は、まず、国書刊行会刊の著作集で、最後の作品 「鏡」(Le Miroir 1978)などが(「思考と視覚の倒錯」なるテーマで、)「ファッショナブルに」目に留まると思うが、こちらの28歳の博士論文(1931、最終書き替えは1986)が、唐草研究にも 重要。
西洋中世美術、ロマネスク彫刻の装飾の学術研究である。原題、「ロマネスク彫刻における装飾様式」(『形成と変形』(フォーメーション、デフォーメーション)である。
序文に 「西欧では、モニュメンタルな人像彫刻は古代ローマ帝国滅亡(476年)とともに消失し、11~12世紀にはじめて、その姿を再び現したのに対し、長い伝統が跡絶えることがなかった装飾は、先立つ時代の美術の基本をなしていた。」 「装飾様式」という言葉はリーグルを思わせ、波状唐草文様「モチーフ」の描画(790の図の中で、わずかな写真を除いてすべて自筆)も、その美術史の伝統を思わせられる・・

異形のロマネスク 石に刻まれた中世の奇想
講談社 (2009/3/13)刊
(「BOOK著者紹介情報」より) 著者:ユルギス・バルトルシャイティス 1903‐1988。リトアニア生まれの美術史家。 パリ大学で中世美術史の碩学アンリ・フォションの教えを受ける。中世ロマネスク装飾芸術の形態分析を中心に多様な研究を展開、独自の学風を築いた
訳者: 馬杉 宗夫 1942年生まれ

内容

ロマネスク聖堂の奇怪な造形の秘密とは?
聖書や神話に材を取り聖堂扉口や柱頭に表された石の彫刻。誇張や変形により見る人の目を惹く様々モチーフの造形原理は何か。異形・奇態の裏の統一法則を解明。


(「BOOK」データベースより)

奇怪なデフォルメで見る者を当惑させるロマネスク聖堂扉口や柱頭の彫刻群。神話や聖書に材をとり空間を埋め尽くす異形のものたちに共通するシンプルな造形原理、基本モチーフとは。

meこの紹介は「異形」とか「奇怪」とかを前面に出しすぎと感じる。ロマネスク彫刻というものは、異形で奇怪なものを作ろうとしたのでなく、幾何学的原理、構造や外的秩序によって変形されたのであり、辿ると面白い。

同名の父(1873‐1944 )詩人・外交官
アンリ・フォション Henri Focillon(1881 - 1943)中世美術史家、妻の父
師の師 エミール・マール(Emile Mâle, 1862- 1954)中世美術史家http://dictionaryofarthistorians.org/malee.htmMajor medievalist of French Gothic art and architecture, developed iconographic method.(図像学的手法を開発した)

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序文
第1部 秩序の確立
第1章 枠組 聖堂を埋める浮彫が従う法則
第2章 装飾 根源のモチーフ 波状唐草文とパルメット(葉)
第3章 影響力(支配) 幾何学装飾から具体的図像への発展

第2部 形成
第4章 装飾的弁証法 怪物たちの奇態、人間像のデフォルメ
第5章 こぶし花柱頭 人間の頭、天使、野獣、幻想獣の繚乱
第6章 壮大な構図 タンパンに花開く《荘厳のキリスト》

第3部
第7章 動物、怪物の制作 三本脚と三身体、頭を取り換えられた動物
第8章 人間、人間の形をした動物 身振り、姿勢、均衡の中世的表現
第9章 解体と恒久性 変形された人間像が放つ不思議な力

結論 形態的強制が生んだ荒々しい生命

訳者あとがき
聖堂建築各部の名称
地図
聖堂彫刻に表わされる代表的な主題

ハート形パルメット

パルメット、メアンダー、シュヴロン、アカンサス
巻末の図 ロマネスクの形態原理の発見
P328 訳者あとがき
無秩序に見えるものの中にある秩序、混沌の中にある統一性」
「空虚空間恐怖」と「枠組みの法則」=師H.フォション」が見出した形態原理、変形(デフォルメ)原理
ロマネスク彫刻の装飾的秩序:「波状唐草文様」(波状にうねる茎の左右に、相互に葉のついた唐草・・「モチーフⅠ」
この波状唐草の二本が左右相称的に向かい合って並び、花二本の茎の内側で向かい合い、二つの葉が一つに融合して一つの葉になる。 この部分を独立させれば内部に葉を取り込む茎が作るハート型のパルメット、すなわち、「モチーフⅡ」が創造される。
ハート形装飾から、他の第三のモチーフといわれる装飾が生まれる。 それはハート形装飾が横に平行して並ぶ時、隣接する他のハート形の茎の接点からX形の第三のモチーフが形成される。
描くことで培った執拗にものを見る眼
一件幻想的で混乱してみえる像に、理性に貫かれた基本原理があることを見抜いた

目次読書


第一部 秩序の確立

第一章 枠組

聖堂を埋める浮き彫りが従う法則

Ⅰ 直線的処理、楣(まぐさ、のき)、破風(正面)/外的枠組み、オーベルニュ地方の三角形にされた楣/内的枠組み、天使の翼でもって構成された破風/破壊された枠組み、最後の審判の中に隠された破風
Ⅱ 曲線的枠組み、メダイヨンと光背/半円形の舞台装置、円盤、輪、動く車輪/光輪と自由に動く光背
Ⅲ 変貌 /四足獣と幾何学的鳥類、棒状人間と球状人間、人間の身体に変わった後光/天使の翼に変化する幾何学


空間恐怖とそれに結びついた枠組みの法則、建築物の構造への適合


図5 ◇クレルモン・フェラン、ノートルダム・デュ・ポール聖堂のタンパン、 図7 ベルナーヴのタンパンなど
 こちらで見られますhttp://www5e.biglobe.ne.jp/~truffe/auvergne.html

第二章 装飾


根源のモチーフ 波状唐草文とパルメット(葉)

Ⅰ 多様性と統一性/パルメットと波状唐草文モチーフⅠ/ モチーフⅠが二重になりハートのエース形になる/ モチーフⅡの変化の範囲
Ⅱ 軸の転換/X形に二重にされたモチーフⅠ/モチーフⅢのその変化/氾濫-幾何学的支配
Ⅲ パルメットと組み合わせ模様/符号と並置/モチーフⅡとモチーフⅢの上に接ぎ木された組紐模様/ 組み合わせ模様の中のパルメット/分解できる迷宮
Ⅳ 装飾とその建築的支え/装飾の中での建築的ひな形/柱頭構造の中の装飾


基本形態をなす中心モチーフ両側に分配された半パルメット(葉)や、様式化された葉を伴った 単純な波状唐草文(=モチーフⅠ)
第一モチーフの唐草が二つ並んで作られる基本形態のハート形モチーフⅡ、
唐草(茎)とパルメット(葉)の新しい統一体
X形の新しいパルメット形が互いに補い合う構造体として確立され発展
ミラノのサンテウストルジオ聖堂
サントのサンテュートロプEglise St-Eutrope
唐草文の無数の変化
ヒルデスハイムのザンクト・ミヒャエル聖堂 パヴィアのサン・ミケーレ聖堂


第三章 影響力(支配)


幾何学装飾から具体的図像への発展

Ⅰ 幾何学の影響力/自然の中の幾何学/レオナルド・ダ・ヴィンチのひび割れの生じた壁画
Ⅱ 幾何学的視覚/枠組みに入れ替わる装飾/三重の符号と重要な作例

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第二部 形成

第四章 装飾的弁証法

怪物達の奇態、人間像のデフォルメ

Ⅰ モチーフⅠ/装飾と動物の雑種/ 装飾の中への動物の侵入/怪物達の戦いとその組み合わせ/ 聖ミカエルの戦いと下半身魚のサイレン
Ⅱ モチーフⅡ/パヴィアの動物返信行列/古代的グループから二つ身体のある怪物/二つ尾のある人物
Ⅲ 半人半魚のサイレン、その典型的なタイプ/尾の変貌/動物に取り囲まれた人間/諸要素の転例 ダニエル、アレキサンダー、聖ロカ、堕落などの表現/三位一体の人間とその図像学的目録/サン・ボンスの≪キリスト磔刑≫におけるシオンの怪物について
Ⅳ 装飾の直線的影響力/文字、または印章のような曲線PーF-T/異なった主題の同一曲線/人間像とその代用物との間のパルメット/サン・レヴェリアンの最後の審判
Ⅴ モチーフⅢ、双頭/爬虫類の動物、鳥、四足獣/サイレンの万華鏡/天国の鳥/三位一体の人物/シオヴィニーの驚異
Ⅵ 変化と迷路/様々な身体の動物形態学的帯/T点とP点における断絶/サンタンブワットマンの水平的、垂直的動物 交換可能な部分を持つ像/ウルセルの淫乱とモワサックの怪物/抽象により吸収


第五章 こぶし花柱頭

人間の頭、天使、野獣、幻想獣の繚乱

Ⅰ 立体幾何学的筋図式/突出部と基盤
Ⅱ いきいきとしたこぶし花/コルベイユに浮き出る動物と人間/サン・サヴァン聖堂の人間の形をしたこぶし花/こぶし花の上で動いている人物/モチーフⅡのこぶし花/タイプⅠとタイプⅡの組み合わせ
Ⅲ 軸を形成するはめ板/箱から出る/人間、キリスト、天使/棒/アーケードの下の人物/アーケードになった人物/動物形態学的な建築/コルベイユの仮面
Ⅳ 水平層/タイプⅣの調度、動物、そして人間のいる柱頭の下部、茎と渦巻き/ドラゴンと雄羊の角
Ⅴ 演出/怪物の世界/タイプⅢ/中央の像の変装/三人で一つのものの表現/タイプⅠとタイプⅢ/同一主題のための様々なタイプ/サムソン、サン・ブノワ・シュル・ロワールの≪エジプトへの避難≫/同一テーブルの周りや、同一の舟 の上での種々の表現/≪墓を訪れる三人の聖女≫の建築


第六章 壮大な構図

タンパンに花開く ≪荘厳のキリスト≫

Ⅰ タンパン上の柱頭の動物形態学/モチーフⅢ、螺旋、相対するグループ/サイレンとライオンの穴の中のダニエルの主題
Ⅱ 勝利の主題のパルメット/ヌイルィ・アン・ドンジョンの≪三王礼拝≫/≪荘厳のキリスト≫の三つの主題/天使に囲まれたキリスト、≪最後の審判≫のキリスト/四福音書記者の象徴に囲まれたキリスト/多葉形弧帯の中のパルメット
Ⅲ アーキボルトに示された数字/≪キリスト昇天≫における天使の踊り/アカンサスの葉とパルメット
Ⅳ 複雑な積み重ね/モワサックのパルメットシャルリュの円のアーチ
Ⅴ ヴェズレーの三角測量

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第三部 変形


第七章 動物、怪物の制作


三本足と三身体、頭を取り替えられた動物

Ⅰ 装飾の中での誕生/解剖学的変形/多くの身体の再統合/三つの怪物/三本の足と三つの身体を持つ怪物
Ⅱ 部分を取り換えうる像 /パヴィアのサン・ミケーレ聖堂の混じり合い/オルネーの分解できる玩具
Ⅲ 一様な骨組みで構成された存在/基本的なタイプ/同一曲線の上での種々の部分の組み立て/寄せ集めと溶解


第八章 人間、人間の形をした動物


身振り、姿勢、均衡の中世的表現

Ⅰ 庇護の手法、対象と補充の特性、地獄の怪物たち/天国の鳥たち、角ばった装飾 /多角形の人間/砕かれた曲線
Ⅱ 解剖学的変形 /人間の身体全体とその部分の幾何学/なじみのものと新奇なもの
Ⅲ 不変動と動き/同一枠組みの中での不動と動き/踊り子と軽業師/不均衡、動き、誇張した動き


第九章 解体と恒久性


結論 形態的強制と荒々しい生命


三本足と三身体、頭を取り替えられた動物

Ⅰ 最終段階/幾何学と具象の解体
Ⅱ 幾何学/自然の中に隠された抽象的像、ロマネスクの≪構造主義≫/規則的な壁の像、三角形、円、螺旋/装飾的主題、集まり(束)、扇、貝殻、アコーディオン/組織者としての襞、装飾品としての襞、そして襞の氾濫
Ⅲ 解放された怪物/変形、外的強制のない不均衡、人魚、自由で紋章的な双頭の怪物、異種交配と移植/頭の多様性と直接的な寄せ集め、再構成された二つの尾を持つ人魚
Ⅳ さまよえる人間/タンパンやオーベルニュ地方の楣まぐさの上のこぶし花/ブルゴーニュ地方のタンパンや柱頭の像/ロマネスクの小人とその動き/変形した人の動作/踊りのリズム


聖堂建築各部の名称
聖堂彫刻に表される代表的な主題

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*巻末の聖堂建築各部の名称・・・ p328「ロマネスク彫刻は
それが置かれている建築の場所の拘束を受けている」


「三本足と三身体」というと、
以前見たウサギがあります・・
「動物シンボル事典」より
中世では、4頭あるいは3頭の野うさぎを輪のように並べた(1頭のウサギの耳がもう一頭のウサギの耳となっている)、四つ葉模様の大型円形彫刻がはやった。 多くの宗教建築物に今でも見られる
→バルトルシャイティスJurgis Baltrusaitis「幻想の中世」 は、シナ・トルキスタンの洞窟、蒙古の細密画、ペルシアのつぼに同じモチーフのあることを指摘している


(p290 図版)

me バルトルシャイデスの「幻想の中世 ゴシック美術における古代と異国趣味 」(平凡社ライブラリー)の方ですが、 「ゴシックの夜に跳梁する異形異類、繁茂する動物文・植物文・・・古代と東方の珍奇なイメージ群のダイナミックな運動を無類の学識と才筆をもって跡づけた綺想の図像学」・・・まだ、とても踏み込めないのですが、『グロリス』という言葉を発見。→ バルトルシャイティスゴシックのグロリス

検索

http://steenstrup.blog.so-net.ne.jp/2009-03-16 この本についての解釈 有益と思う

■ハート形の中にパルメットの紋様 文化遺産オンラインhttp://bunka3.nii.ac.jp/

(photo http://0845.boo.jp/times/archives/000676.shtml)
前3世紀ゼウス神像の左足
法隆寺の透彫り金具文様 -モティーフ融合およびモティーフ喪失文様考察(PDF)

[文様伝播の状況を巨視的に見れば,原初の文様モティーフの意味が不明となり, ただ形だけが模倣されていくことや,まったく別のモティーフと融合して新たな形をなす]

モティーフ喪失 やモティーフ融合の造形展開
「逆ハート先端巻きこみ形」
懸魚(げぎょ=破風の下の飾り)(日本)
連珠円文(PDF)

2010年3月25日UP 2012-03-23追記

me2014年訳者の本⇒『ロマネスクの美術』を読む
他に、美学で、 ゴシック建築についてなど追加


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