唐草図鑑
聖樹聖獣文様

 フランスのロマネスク建築の復習の続き・・

『図説 ロマネスクの教会堂』の目次読書

(辻本敬子・ダーリング益代著2003年1月河出書房新社)

目次読書

プロローブ ヴェズレー詣で
コラム ロマネスクという用語
コラム 消えた教会堂―クリュニー修道院の悲劇

第1章ロマネスク建築

第2章ロマネスク芸術
コラム 『薔薇の名前』

第3章 ロマネスク巡礼
1.ヒルデスハイムのザンクト・ミヒャエル
2.シュパイヤ―大聖堂
3.トゥルニュのサン・フィリベール
4.サン・ブノワ・シュル・ロワール
5.カンのラ・トリニテ
6..サン・サヴァン・シュル・ガタンプ
7.コンクのサント・フォア
8.クレルモン・フェランのノートル・ダム・デュ・ポール
9..アングレーム大聖堂
10.オルネーのサン・ピエール
11.トゥルネー大聖堂

以下は私の関心の中心なので、長く引用する。

葉飾り柱頭の系譜と説話柱頭の系譜

第2章ロマネスク芸術(p46)
1.モニュメンタルな彫刻の復活
2.建築に従属する建築
扉口と柱頭
柱頭の形態学

柱頭
胴部(コルベイユ、またはバスケット)
柱との接合部(アストラガル、またはネッキング)
胴部の頂(アバカス)


p44の説明図

柱頭の形態はさまざま
ロマネスクの柱頭ほど形体と意匠において変化に富むものはない(p48)

古典のコリント式・複合式柱頭の延長線上にある葉飾り柱頭から、
北方の伝統を受け継ぐ抽象文様の柱頭、
幻想的な怪物の住む柱頭、そして
聖書・聖人伝・寓話を題材とした説話柱頭まで、
限られたスペースにあらゆる表現と攻勢を可能にしていった

しかしこうしたロマネスク柱頭の豊かさも、その始まりは驚くほど稚拙なものだった。ロマネスク柱頭の特徴を葉飾り柱頭の系譜と説話中柱頭の系譜で追ってみよう。(p48)

以下はp47~ 56からの抜き書きとなります。
(写真はウィキメディアを援用)

葉飾り柱頭の系譜

トゥルニュ、サン・フィリベール修道院教会堂

Saône Tournus4
トゥルニュ、サン・フィリベール修道院教会堂

クリュプタ、トリビューン、回廊、周歩廊、交差部と、異なる場所に異なる時期の柱頭がある。(P48)

Tournus Saint-Philibert capital

Tournus Saint-Philiber capital 1

Tournus Saint-Philibert capital 2

Tournus Saint-Philibert capital 4

トリビューン東開口部の柱頭
11世紀第2・四半期とされ、ロマネスク黎明期の作品がどんなものであったか伝えてくれる。
立方体の石材から柱頭を掘り出すのに下半分は円柱に合わせて形を整えているが、上半分は石材の形のままの二部構成で、上下の移行は滑らかにいかない。
柱頭の表面は鑿で線彫した葉茎で覆われている。(p48)

Tournus hlavice DSCN1198

トゥルニュの回廊の柱頭
葉飾り柱頭に交じり、正面に組み紐文を示す柱頭がある、こうした北方抽象文様の根強い伝統がロマネスク彫刻のあちこちに時々顔を出す。組み紐文柱頭はスペインのフロミスタやシロスにある。(p49)

トゥルニュ教会堂交差部の柱頭
1100年前後にブルゴーニュ地方で流布した柱頭意匠の典型を示している。
柱頭胴部を二段に分け、下段には環状葉飾り、上段正面にはV字形に背中合わせになった一対の動物を配し、左右の角に動物の頭部を置く。
この柱頭を葉飾り柱頭と比べてみると、動物の背は柱頭胴部中央から両角に向かう茎を、動物の頭は角の渦巻きをそれぞれ置き換えているのがわかる。

これらの記述に合う画像を探したが見当たらなかった・・が・・トゥルニュ教会堂は、楽しみである

Abbaye St Philibert à Tournus - Vestibule (01)

柱頭の勘所である両角の意匠を動物頭部に置換したことは、柱頭の歴史で初めてのことではなかったが、その特異な展開はロマネスクの独擅場だ。すなわち、柱頭の角で出会った二つの横向頭部が結合し、一つの正面向き頭部に変わる。その一つの頭から柱頭の隣り合う左右の面に二つの胴体が続く。こうしてロマネスク柱頭特有の奇怪な生き物が誕生する。

Column capital of the Saint-Philibert abbey 1

この生き物が柱頭の正面に移ると、シャム双生児とは逆の一頭二身が出来上がる。

ロマネスク柱頭はこうした幻想的な世界を作り出す一方で、古代ローマのコリント式葉飾り柱頭(正確には複合式) の伝統をひくものも少なくない。」

Tournus - 64

ブリヨンネ型の柱頭
背中合わせになった獅子の頭と隣接面の獅子の頭が柱頭の角で出会う。葉飾り柱頭を下敷きにして茎を動物に変えていった。(p49)

「ブリヨンネ型」の意味が不明(-_-;)

ウィキメディアにあるその他の柱頭をもう少し

Tournus 75


Capitulaire hall of Saint-Philibert de Tournus (9)

ショーヴィニー

Eglise Saint-Pierre de Chauvigny(Wikipedia仏)
Chauvigny eglise chapiteau3
ショーヴィニー、サン・ピエール教会堂、周歩廊柱頭
「頭が一つで胴体が2つという奇異な姿もロマネスク彫刻にあっては異常ではない。」12世紀後半(p59)

探したところ、ドイツ版のWikipediaページに、下の有名な柱頭他計16図もありました(20190227閲覧)
また美術史家Ingeborg_Tetzlaffの解釈があり、フランス版より詳しい。

NOR1412KAPITELL III

Chauvigny eglise chapiteau2

NOR1411Kapitell I

NOR1428.1NOR1429

Basilique Saint-Andoche de Saulieu

Saulieu, Basilique Saint-Andoche-PM 48281

ソーリュ、サンタンドッシュの葉飾り柱頭。構成の原型はコリント式だが、葉先からぶら下がる顔が不気味な笑みをたたえる(p51)

ウィキメディアのページに51もの図があった。(閲覧20190227)Category:Capitals of Basilique Saint-Andoche de Saulieu

この聖堂の柱頭は、独立の円柱というより、壁と一体の半円柱(付け柱)だけなのだろうか?ショーヴィニー、サン・ピエール教会堂は3面見られ、サン・ブノワ・シュル・ロワールのものはちゃんと円柱もあるようだが・・

サン・ブノワ・シュル・ロワールSaint-Benoit-sur-Loire

San Benedetto sulla Loira nartece

サン・ブノワ・シュル・ロワールの鐘塔玄関にあった50の柱頭のうち43が現存している。正面入り口を飾るコリント式柱頭には、「ウンベルトゥス我を作れり」の銘がある。柱頭は胴部の高さが65センチ、上端のアバカスの幅が92センチ、柱頭底部の直径65センチと堂々としている(p50)

Abbaye de Saint-Benoît-sur-Loire (chapiteau d'Unbertus)
Le chapiteau d'Unbertus
(fr.wikipedia)
Saint-Benoit-sur-Loire

第3章の方にも、この聖堂の柱頭が3つ紹介されている

カロリング朝の写本をモデルにしていると思われ、黙示録1章13~18)のテキストによくしたがっている。(p100)

11世紀前半という早い時期にキリスト伝、ヨハネの黙示録、サン・マルタン伝という説話図像を堂々と柱頭に持ち込んだサン・ブノワ・シュル・ロワールの彫刻家の発想と創造力は特筆に値する。(p100)

Saint-Benoît-sur-Loire Blattmaske Portal
Blattmaske Portal Turm

動物文の柱頭。人間の頭部と獅子からなるこの柱頭は、一見複雑に見えるが基本分割はコリント式柱頭と同じである。
獅子の背は左右対称に広がるアカンサスの大きな葉を、向かいあう獅子の頭部は角の渦巻きを、また下半分の動物は水平帯をそれぞれなぞっている。
11世紀後半になると同様の獅子の使い方がブルゴーニュの柱頭にも表れる。(トゥルニュの交差部柱頭参照。p49)(p100)

St Benoit Sur Loire 2007 05
St Benoit Sur Loire
(右の奥の柱頭)↓

柱頭胴部にアーチ列を繰り返し、左側面に「受胎告知」、正面に「ご訪問」を示す

Abbaye de Saint-Benoît-sur-Loire ou abbaye de Fleury 07

SaintBenoitPorcheCoupe
Abbaye de Saint-Benoît-sur-Loire, Coupe sur Tour-Porche
(image du domaine public (Gailhabaud, 1858) modifiée)

クリュニー第三教会

クリュニー第三教会の南交差部に残る葉飾り柱頭(p50)
Cluny mg 8136

FR-Cluny-Abbaye-2643-0036
クリュニー第3教会の周歩廊柱頭「単旋律の音、第3音」葉叢にかかるペンダントのようなマンドルラの中でリュートの第3音を奏でる。現在はクリュニー・ファリニエ美術館

Farinier Cluny 04
Cluny, intérieur du farinier
ムチエ・サン・ジャンの葉飾り柱頭(p51)
Capital, Moutiers-Saint-Jean, Burgundy, France, c. 1125-1130 AD, limestone - Fogg Art Museum, Harvard University - DSC00667
ハーバート大学、フォッグ美術館 (wikimedea)
Perrecy-les-Forges
ペルシー・レ・フォルジュの玄関間の葉飾り柱頭(p51)
柱頭を正面と側面に分ける両船の概念はもはやなく、みずみずしい大きな葉が正面に向かって伸びる。(p51)
Perrecy-les-Forges Saint-Pierre-et-Saint-Benoît columns80

説話柱頭の系譜

ロマネスクの柱頭を特徴づけるもう一つのジャンルに説話柱頭(歴史柱頭ともいう)がある。(p51)

先に見たサン・ブノワ・シュル・ロワールの柱頭・・
葉飾り柱頭、動物文柱頭、説話柱頭はどれも同じ時期に制作された(1040~50)ものだから、ロマネスクの早い時期から併存していたことになる。

Abbaye de St Benoit sur Loire Porche (3)

そのうちの一つ、「エジプトへの逃避」
Abbaye de St Benoit sur Loire Porche
(サン・ブノワ・シュル・ロワール、鐘塔玄関、柱頭)

左側面に刀を振りかざす兵士は「嬰児虐殺」を、また右側面で龍を退治する大天使ミカエルは黙示録の「女と龍」に続く場面を暗示する。こうして彫刻家はイメージによる注釈者となる。(p52)

主題を構成する聖母、幼児キリスト、ヨセフ、ロバ、天使の位置は、葉飾り柱頭を分節していた群衆のそれにほぼ対応している。
両角の渦巻きはそのまま保ち、正面中央の円花飾りを聖母の頭部に、中心軸の茎を身体に置き換えた。(p51)

柱頭胴部には構成要素がぎっしりと詰め込まれ、人物もロバも身動きが取れない。司会、この動きのない厳正な聖母とキリストの表現は「エジプトへの逃避:という説話場面を示すと同時に「荘厳の聖母子像」の図像も兼ねてているのである。(p53)

Autun, Flight into Egypt
Flight into Egypt. Capital from Autun cathedral. Sculptor: Gislebertus
オータン、サン・ラザール大聖堂「エジプトへの逃避」
Cathédrale Saint-Lazare d'Autun(fr.wikipedia)

現在は階上の柱頭室にあるが、もとは内陣北側の支柱周辺で「マギの夢」「マギの礼拝」とともにキリスト幼児伝サイクルを形成していた。1120~30年頃(p53)

葉飾り柱頭をもはや下敷きにしていない。図像を構成する要素は整理され、聖家族の面々にスポットがあてられる。
木馬のようなロバは、水平環状飾りの役割から解放され、柱頭の下縁に並ぶ車輪の上をころがるように進行する。

オータンの人物像は身体のヴォリュームをまだ獲得していないが、表情は豊かになった。(p54)

Saulieu (21) Basilique Saint-Andoche - Intérieur - Chapiteau - 15
Chapiteau de la basilique Saint-Andoche de Saulie
ソーリュ、サンタンドッシュ「エジプトへの逃避」柱頭

登場人物やロバが柱頭胴部の「地」から解放されるくらいに立体性を獲得している。1135~45年頃。

ソーリュのサンタンドッシュ教会の柱頭は明らかにオータンの柱頭に触発されて同じ主題を扱っている。しかし、出来上がった柱頭はまったく別の「エジプトへの逃避」になった。

これらの作品を隔つ時間は10年ぐらいだろうが、その間の技術の進歩は柱頭の胴部を後退させ、登場人物を丸彫りに近いくらい「地」から解放した。(p54)

動物の柱頭

葉飾り柱頭、説話柱頭と並んで、ロマネスク教会には動物の活躍する柱頭も少なくない。
純粋に装飾モチーフとしての動物、異教神話や東方起源の空想上の動物(サイレン、ケンタウロス、双頭鳥、有翼動物)、戒めを意図する寓話の中の動物黙示録の幻想的な怪物など様々だ。(P54)

こうした動物の活躍する背景には古代と中世を結ぶ動物シンボリズムの系譜があった。
グレゴリウス一世の『ヨブ記講解』
セビリャのイシドルスの『語源』は、オータンのホノリウスの著作に受け継がれる。
しかし著作だけでは説明しきれないほどロマネスク柱頭の動物は限りなく変幻する。

柱頭の配置

柱頭は自己完結性の形体であり、設置され高さと位置によっては見にくい。
彫刻されたすべての面を一度に見ることはできない。

しかし教会堂内のある特定の場所に関連性のある図像をひとまとまりに配置することはある、(p55)

教会堂の中でもっとも重要な内陣には典礼を行う祭壇がある。
祭壇周辺と周歩廊の柱頭には、内陣の機能を移す図像がしばしば認められる。

Mozac Saintes femmes
モザ、サン・ピエール修道院教会堂「聖墳墓詣り」の柱頭Abbaye de Mozac(fr.wikipedia.

復活祭の典礼劇は最も古い。劇では、聖女が最大に作った墓に近づくと、天使が「誰を探しているのですか?」とたずねる。聖女の一人が答えて、「ナザレのイエスです」。すると天使は「お探しの方は、もうここにはおられません。復活されました。墓の中をごらんなさい」。こうして復活祭の劇はクライマックスを迎える。この柱頭は劇を写すかのように、もとは祭壇近くの周歩廊柱頭にあった。(p54)

Abbatiale St Austremoine Issoire Chapiteau Cène
Église Saint-Austremoine d'Issoire(fr.wikipedia)
Eglise Saint-Austremoine d'Issoire 7

イソワール、旧サント-ストルモワンヌ修道院、受難、復活伝を示す周歩廊柱頭から
図像の配置は祭殿で行われる典礼との関係を示す。柱頭の稜線を解消し、晩餐の食卓が胴部を一巡する。彩色は図像を読みやすくする。

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そのうち、この本に紹介されていたが、行かない(行けない)修道院((笑))はこちら

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