唐草図鑑
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西欧中世の美術

「ヨーロッパ中世美術講義」 

実に面白い、越宏一さんの「ヨーロッパ中世美術講義」
図像を見る(その3)     (⇒目次読書に戻る)

KellsFol292rIncipJohn.jpg
"KellsFol292rIncipJohn" by 不明 - [1]. Licensed under パブリック・ドメイン via ウィキメディア・コモンズ.

口絵3 ケルズの書 Book of Kells ヨハネ伝福音書1章1節のテキスト In proncipio erat verbum
アイオナIona島(?),800 年頃 ダブリン Dublin, トリニティ・カレッジ図書館Trunity Collage Library ,Ms.58 ,fol.51v
「ケルト美術の極限ともいわれる作例」

第2講 中世絵画の様式的諸そうと展開絵画としての文字

アイルランドやアングロサクソンやフランク族の写本画家や写字生にとっては、挿絵と文字はたがいにそれほど異質なものではなかった。
文字と挿絵はともに、写本ページの空(から)の地を埋める装飾的要素とみなされ、両者とも同じ美的機能をそなえたものと解された(p76)

しかし、これ以上に注目すべきことは、彼らが文字形体から直に装飾を発展させたという点にある。

In proncipio erat verbum
最初の二文字INが大文字の連字で記され、Iは写本ページの上下いっぱいの大きさで、様々文様で飾られている。
ページの下半分には文字が配された水平の帯が三つあり、その一番上に第二単語のprincipioの一部(princ)が記されているが、その語頭のPとRも連字、ニ番目の水平帯は第ニ単語の途中のipioから始まり、IとPが連字である。
第三単語erat は第二単語との間が分離されずに続けられ、第三単語と第四単語verbumとの間に冒頭の単語Inの n を構成する右垂直軸の下部が割り込んでいる。
第四単語はverまでが第ニ水平帯に記され、残りのbumは第三水平帯に回されている。
文字はページの下に行くにつれて小さくようにデザインされ、ページ全体を意識して構成されていることがわかる。
興味深いのは、イニシアルIが左側の縁取りを兼ねているのに対し、右側と下辺には特別に枠取りが配されている点である。つまり文字が画像のように枠取られているのである。 (p77)

ページ上部の正面像は福音書を手にするヨハネである。

このページは文字と装飾と画像によって構成されているが、このような三者の共存は古代の写本画には見られない。(p46)

KellsFol034rChiRhoMonogram.jpg
"KellsFol034rChiRhoMonogram". Licensed under パブリック・ドメイン via Wikimedia Commons.

図50 ケルズの書 キリストのモノグラム
XPI(p77)

『ケルズの書』の彩色には三人の「手」がみとめられるが、フォリオ34レクトのキリストのモノグラムは、研究者が「巨匠」と呼ぶ写本画家によって描かれた

ギリシア語の「キリスト」のモノグラムXPIは、「キリストの誕生はこのようであった」で始まるマタイ伝福音書第一章18節のテキスト冒頭の文字である。 

画面の上下いっぱいに伸びたXは、S字型の曲線の交差で形成され、その末端で円環を描いている。

螺旋文、巴文、組み紐文が空隙を埋めているが、さらに目を凝らしてみると、天使、人頭、猫と鼠、蛾、カワウソ、鮭等、自然界の具体的形象がケルト独特の抽象的文様世界に取り込まれていることがわかる(p78)

もともとテキストと読みやすくするために工夫された冒頭の大文字という観点からは、その存在理由に反して不明瞭、不可解なものになっている。
しかし、キリストのモノグラムの場合は、大文字がキリスト自身の象徴であり画像の代用となっているので、特別に豊かな装飾が施され、強調されたとしても驚くに当たらない(p89)

キリストのモノグラムのような絵画と同等の記号から具象的再現へのステップはわずか・その例
ミサ典文 の テ・イギトゥールTe igiturのイニシアルT

典礼書(サクラメンタリウム):典礼を規定し、典礼に唱えられる式文を含む書物
ミサ典礼書(ミサーレ):ミサのとき、司祭が用いる祈祷文や聖歌を収めた書物

これらの写本の装飾は、最も重要なミサ聖祭通常文(オルド・ミサエ)が中心: 密誦に続く序誦(プラエファティオ)の冒頭と
三聖誦(サンクトゥス)に続くミサ典文(カノン)の冒頭 (Te igitur clementissime Peterさて、汝、いと慈悲深き聖父よ)の二か所 のみが、カロリング朝以降、絶えずイニシアルか全ページ大のミニアチュールで飾られた。
メロヴィング朝では、これらの個所はまだ無装飾であった。(p80)

ミサ典文の冒頭にキリスト磔刑のミニアチュールを配することはオットー朝時代に一般化した。(p80)


Source/Photographer gallica

図51 メッスMetzの典礼書Sacramentarium ミサ典文 冒頭のイニシアルT
カール禿頭王の宮廷派、870年頃 パリ国立図書館, MS.lat. 1141,fol,6v

典礼書(サクラメンタリウム):典礼を規定し、典礼に唱えられる式文を含む書物
ミサ典礼書(ミサーレ):ミサのとき、司祭が用いる祈祷文や聖歌を収めた書物

※カール禿頭王の宮廷派・・ https://en.wikipedia.org/wiki/Charles_the_Bald(823–877)

T以外の文字は十字架の右手に縦に記されている(p81)

Tは豪華な枠取りのある絵画の主題となっている

キリストの足もとの蛇は、彼が死に打ち勝ったことを象徴するモティーフ
上方の二つのメダイヨンは、キリスト磔刑とともに起こった天変地異の暗闇を喚起させる、太陽と月の擬人像

人間像は文字の形体に重ねて表された

テキストを治める写本という新たな環境において、人間像その他の形象はもはや、ミニアチュールの画面という、従来の領域のみに登場するのではなくなり、また、形象の再現的機能も唯一の生存理由ではなくなった
シトー派のロマネスク写本の「形象イニシアル」(文字そのものの代用)
人間像はまた、文字のみならず、装飾的要素とも提携した
yじるしイギリスのロマネスク写本にしばしば見出される「人が住んだ渦巻き inhabited scroll」イニシアル


図11 (p20)ヨブ記講解 形象イニシアルQ
グレゴリウス大強硬Gregorius Magnus著『ヨブ記講解Moralia in Iob
斤で木を割る修道士 シトーCiteaux,1111年頃 ディジョンDijon市立図書館Biblioteque Publique,Ms.170、fol.59r

この図は表紙にもあるキモの画像・・



図52 (p80)聖書ヨブ記のイニシアルV
イギリス,1150年頃 オックスフォード,ボドレアン図書館,Ms.Auct.E.Infra Ⅰ,fol,304r

Te igiturのTをはじめとする以上の作例は、ミニアチュール(画像)、枠取り、装飾、文字という諸要素が、一つの単位(イニシアル)にいわば同棲しているという点で共通する。(p81)

ここが初めにこの書をきっちり読みたいと思ったあたりです


口絵1 ハインリヒ2世の典礼用福音書抄本 羊飼いへのお告げ
口絵2 エヒテルナハの福音書 マタイの象徴
口絵3 ケルズの書 ヨハネ伝福音書1章1節のテキスト(はじめにことばありき)
口絵4 聖エセルウォルドの祝別要式書 キリストの墓を訪れる聖女たち
口絵5 リンディスファーンの書 福音書記者マルコ
口絵6 ティベリウス詩篇 キリストの墓を訪れる聖女たち
口絵7 ユトレヒト詩篇 詩篇第11篇挿絵
口絵8 ソワソンのサン・メダールの福音書 24人の長老による子羊の礼賛

 非常に面白い♪→続く・・ 

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